日時:2025年08月23日 14:00~17:00
会場:田辺市役所 1階 多目的ホール
真砂市長を講師に迎え、これからの田辺市の新たなまちづくりについての講義をいただく中で、どこにビジネスチャンスがあるのかを探りました。
また、ケーススタディでは、たなべ未来創造塾の立ち上げから、長年塾運営に携わり、現在、出向先である熊本大学で、他の姉妹塾への運営支援にも関わられている田辺市たなべ営業室参事・熊本大学研究開発戦略本部客員教授 鍋屋氏から、地域課題をビジネスで解決するという見解について実践事例を交えながら講義をいただきました。
講師 田辺市長 真砂充敏
田辺市まちづくりの変遷
田辺市は平成17年5月に合併し、その後10年間にわたり「新市建設計画」に基づく市政運営を行ってきました。この10年間は、新田辺市の基礎づくりの期間と言えます。合併10周年の節目を新たなまちづくりに向けた転換期と捉え、田辺市の新たな価値を創造するために、平成26年4月に「たなべ営業室」を設置し、平成28年からは地域課題をビジネスの手法で解決する人材を育成する「たなべ未来創造塾」がスタートしました。
今期で10期目という節目を迎える「たなべ未来創造塾」ですが、田辺市もまた本年、「田辺市合併20周年」、「みなべ・田辺の梅システム 世界農業遺産認定10周年」、「闘鶏神社 世界文化遺産追加登録10周年」という大きな節目の年を迎えます。さらには、世界的なイベントである「大阪・関西万博」の開催や、「地方創生2.0」の閣議決定といった大きな政策も動いており、地域の可能性が広がる年でもあります。10期生の皆さんには、この偶然を必然と捉え、自身にとっても意味のある年にしていただきたいと思います。
「まちづくり」とは、「課題を解決すること」と「価値を創造していくこと」、この二つが重要ですが、この二つの要素は表裏一体でもあります。行政はどちらかと言えば「課題解決」に注力していますが、「課題解決」の中には、民間の強みを活かせるビジネスチャンス、「価値創造」のチャンスが内在しているかもしれません。しかし、そのチャンスに気付くかどうかは個人の洞察力や関心に依存します。
10期生の皆さんは、それぞれのテーマを持ち「たなべ未来創造塾」に参加されています。塾での学びや気付きを大切にし、日常的にアンテナを広げ、チャンスを見つけて行動できる人材になっていただきたいと思っています。
これからのまちづくり
〇「田辺ONE未来デザイン」構想
昨年、市庁舎が移転し、旧庁舎跡地や市民総合センターを含めた田辺湾岸エリアをどのように活性化していくかが、まちづくりの大きなテーマとなっています。湾岸エリアには天神崎や扇ヶ浜をはじめとする豊かな自然、南方熊楠や植芝盛平、武蔵坊弁慶といった田辺三偉人に関連する施設や紀南文化会館など、多くの地域資源があります。また、文里湾横断道路の建設も予定されています。これらの地域資源を活用し、湾岸エリアを中心としたまちづくりのデザインを描き直すことで、エリアとしての一体的な価値向上を図り、多くの方々に訪れていただくことで、中心市街地だけでなく周辺エリアの活性化にも繋げていきます。
○周年期を活かしたまちづくり
令和5年度は「梅酒で乾杯条例制定10周年」、令和6年度は「熊野古道の世界文化遺産登録20周年」、「サンティアゴ・デ・コンポステーラ市(スペイン)との観光交流協定締結10周年」、令和7年度は「新田辺市発足20周年」、「みなべ・田辺の梅システムの世界農業遺産認定10周年」と、令和5年度から7年度にかけて田辺市にとって大きな節目の年が続いています。田辺市では、この3年間を大きなチャンスとし、さらなる市の価値向上を目指した各種事業を推進しています。
○梅酒ツーリズム
梅酒で乾杯条例制定10周年である令和5年度からの3年間、田辺市の主要農作物である「梅」を国内外に向けさらにPRすべく、「梅酒ツーリズム」を実施しています。梅干だけでなく梅加工品の需要を増やすため、「梅酒の聖地、田辺」としてのブランディングを推進しています。
○人口減少に起因する課題解決をビジネスチャンスに
人口減少という現象そのものが悪と捉えられがちですが、実際の問題は人口減少のスピードが速く、社会が対応できない可能性がある点にあります。この点を考慮すると、人口減少対策には大きく二つのアプローチがあります。
対策①(人口そのものを増やす、または減らさないようにする)
対策②(人口が減っても元気で持続できるまちにする)
「たなべ未来創造塾」もこうした対策の一つです。定住人口が減っていく中でも、それに対応し、継続的に経済活動を行い、地域を元気にしていくプレイヤーを育成しています。そして、そんな魅力的なプレイヤーを軸に関係人口を創出することで、人口が減少しても地域の活力を維持することを目指しています。
しかし、中心市街地においても人口減少が顕著になっている現実もあります。この課題に対しては、中心市街地の活性化を進めるとともに、「田辺ONE未来デザイン」構想や旧庁舎や市民総合センターといった未利用公共空間の利活用についても引き続き研究を進めています。
また、10期生には田辺市周辺の自治体からの参加者もいらっしゃいます。人口減少が進む中で、行政としても広域連携で効果的に取り組んでいる事業もたくさんあります。塾生の皆さんには、ぜひ未来創造塾でのつながりを活かして、行政区にとらわれない新たな広域的取組にも挑戦し、地域を盛り上げていただければと期待しています。
これまで、そしてこれからの田辺市のまちづくりについて講義をいただき、その後の質疑では、時間の許す限り市長は塾生と対話を行いました。講義、対話の中から田辺市の取組や自分たちを取り巻く環境について深く知るとともに、これからの塾生の活躍に期待する、そんな講義になりました。
講師 和歌山県田辺市たなべ営業室参事 熊本大学研究開発戦略本部客員教授 鍋屋安則 氏
鍋屋氏は、2014年に新設された「たなべ営業室」に配属となり、「たなべ未来創造塾」を立ち上げ、7期にわたり82名の修了生を輩出しました。その後、2023年より熊本大学に出向し、熊本大学が共同主催する未来創造塾の運営ナレッジ移転に努められています。
人口減少下での地方創生とは
日本は、これまでに経験したことのない人口減少社会を迎え、紀南地域においてはほとんどの自治体で消滅可能性があると言われています。紀南地域に限らず、多くの地方は人口減少を起因とした多様な地域課題を抱えていますが、これらをいかに解決するかということが問われており、その手法の一つとして、地域課題の解決とビジネスを両立させるCSV(共通価値の創造)という考え方が注目されています。
未来創造塾から生まれた事例
未来創造塾では、短期的な収益にとらわれるのではなく、自身の本業や強みを生かして解決できる地域課題を探し出し、対話を通じて掘り下げつつ、ストーリーにしていくことで中長期的な視点から企業のパーパス(存在意義)を明確にしていくということを大切にしています。
前半のケーススタディでは、地域課題であるあかね材(虫食い材)を活用した「BokuMokuプロジェクト」や鳥獣害に正面から取り組む「(株)日向屋」、ジビエを活用した地域循環型レストラン「キャラバンサライ」、梅と鰻のひつまぶし「太田商店」などの事例を通じて、地域課題解決が企業価値の向上につながるとともに、それぞれの事業者が強みと弱みを交換することで地域循環が生まれているとの説明がありました。
後半のケーススタディでは、「andiamo!」「onlyonebenefit」「ツボ井スポーツ」の事例を通じて、“共助”“コミュニティ”が育児ストレスの軽減、ひいては出生率低下の歯止めにつながる可能性を示唆しました。
人口減少が根っことなり、多様な地域課題が生じますが、地域事業者それぞれが本業や強みを生かして解決できる地域課題・身近な困りごとを探し出し、一人一人が少しずつ解決していくこと、この積み重ねが持続可能な地域づくりへとつながるのではないでしょうか。
地域のかっこいい大人たち
田辺市では、「たなべ未来創造塾」を起点としながら、多様な人材をつなげていく「人」を中心とした地方創生を展開する中で、関係人口の創出にも取り組んでいます。その一つである越境学習「ことこらぼ」は、都市圏企業の多様な人材と未来創造塾修了生がチームを組み、約4か月間の活動を通じて地域課題解決に繋がる事業創出を目指すというものです。
また、「たなべ未来創造塾」の修了生と地域の高校生が繋がる機会を創出すべく、神島高校が主催する「神島塾」を始めとした地域内での学校連携にも取り組んでいます。当地域では、高校を卒業し大学進学等で地域を離れ、大学を卒業したあとも地域に帰ってこない社会減少が人口減少の大きな要因の一つとなります。
若者が帰ってこない理由として、「地元にやりたい仕事がない」「魅力的な仕事がない」などということが挙げられますがが、地域を離れる前に地域課題を解決する地域の“かっこいい大人”と関わることで、将来、地域に帰りたい、もしくは帰ってこなくても関わり続けたいと思う若者を増やすことができるのではないでしょうか。
最後に
今回の講義を通じて、地域課題をビジネスで解決するCSVとは、どのようなものなのか、理解が深まったのではないでしょうか。第10期はまだ始まったばかりです。2月の修了式に向けて、皆で学びを深めていきたいと思います。
1日目
2025.07.26
2日目
2025.08.09
4日目
2025.09.06