日時:2025年09月26日 14:00~17:00
会場:田辺市役所 1階 多目的ホール
熊本大学理事・副学長 大谷 順
地域課題を解決するcsv人材育成とビジネスの実装を目指す「未来創造塾」は、これまで全国9地区で実施し、421名の修了生を輩出してまいりました。
こうした中、2025年6月に日本商工会議所青年部と熊本大学との間で「人材育成の連携に関する覚書」を締結し、今年度より新たに愛知県蒲郡市と群馬県桐生市でも「未来創造塾」が開講、合計11地区で実施することとなりました。
熊本大学では、この「未来創造塾」を起点とし、未来創造塾で育成したCSV人材が高校連携事業や都市圏企業との連携による越境学習事業などに関与する持続可能な地域づくりを目指したエコシステムを構築しておりますが、取り分け、高校連携に関しましては、県内外11校を対象とし、多くの未来創造塾修了生にご協力をいただきながら実施する中で、事業を通じて高校生の地域への愛着が醸成され、「将来は地元に帰ってきたい」、「たとえ地域地域を離れたとしても関係人口として地元に関わり続けたい」といった意識変容が起こりはじめていることを強く感じております。
熊本大学では、皆様とともに創り上げてきたこれまでの土台をもとに2026年4月より地域連携の新戦略として、小学校、中学校、高校、大学、社会人までの一貫型教育を目指した「共創学環」を創設いたします。
今後、産学官金の連携をさらに強化し、地域社会の様々な課題解決に貢献する人材育成と、こうした人材を起点とした持続可能なエコシステムの構築に、より一層邁進して参りたいと考えておりますので、関係機関の皆様には、より一層のご協力をお願いいたします。
講師 熊本大学副学長・研究開発戦略本部 地域連携戦略部門長 金岡省吾 教授
人口減少の影響
人口減少は、出生率の低下などによる「自然減」とともに、高校進学・大学進学・就職で結婚・子育てを機に地域を離れる「社会減」が要因となりますが、地域に住みたい、帰ってきたい、関わりたいとの地域の愛着をいかに高めるかが重要です。新しい地域づくりでは、地域の魅力を高め人々を惹きつける地域の力を高めることが求められています。では、人口減少が進むと地域にどのような課題が生じるのでしょうか。
特に、買物環境の悪化、地域公共交通の廃止…といった、日常生活を支えるサービスが少しずつ失われ、小売業や卸売業、飲食業といった地域を支える企業が大きな影響を受けます。このような地域課題を克服し、いかに地域に魅力を高めるかが、新しい地域づくりでは求められています。
人口減に適する地域+地域ビジネス
こうした状況の中、従来は行政が中心となり克服してきた地域課題を、現在は地域が主体的に考え行動する「小規模多機能自治」「小さな拠点」「農村RMO」「新たな公」といった取り組みが注目されつつあります。これらは、ボランティアではなく、ビジネスの視点を取り入れながら地域課題解決に取り組むことで持続可能性を高めていこうというものです。決して大きな収益を生むものではありませんが、企業としての存在意義を高めることに寄与します。
人口減少時代となり、地域企業の経営も、ボランティアから、「地域ビジネス」「CSV(共通価値の創造)」「パーパス経営」といった方向にシフトしつつあり、地域の将来人口等を見据えて、地域の将来像を構造的に考え、地域課題を解決する地域発のイノベーションを創出し、起業増加町を醸成する産学官金連携に資する人材が必要とされています。
地域ビジネスは決して大きなプロジェクトである必要はありません。
地域の課題解決にビジネスチャンスが転がっています。まずは、本業で解決できる地域課題を探し出し、自身の企業と地域との関係(企業理念、パーパス)を明確にしたうえで、小さく実行してみる、こうした小さな取り組みが地域の中で数多く起こり、それぞれが価値連鎖を一致させつながり、地域クラスターを形成することが地域を変える原動力になるのではないでしょうか。
講師 和歌山県田辺市たなべ営業室参事 熊本大学研究開発戦略本部客員教授 鍋屋安則 氏
今回紹介する事例は、地域の買い物難民の解決に取り組んだ事例です。
人口減少や高齢化が進むことにより、地域の小売店やスーパーが撤退し、買物難民が増加していますが、その課題解決の取組として、「移動スーパー」や「乗り合いバス」といった事例が全国でうまれつつあります。ここで重要となるのが、「自助」「公助」「共助」という考え方です。「公助」は行政が税金を活用して解決するということですが、人口減少が進む中では限界があります。そこで今、重要とされているのが「共助」。民間企業がビジネスとして売上を確保しながら、地域課題を解決することで持続可能な社会を形成していこうというものです。
たなべ未来創造塾3期生の初山さんは、家業であるはつやま鮮魚店を営んでいますが、2050年には約50%が住まなくなると予測されている農村部にある昔ながらの鮮魚店です。はつやま鮮魚店では鮮魚に加え、総菜等の販売や買物支援サービスなど地域の皆さんに食を提供しつづける地域密着型の経営をしていました。初山さんが未来創造塾に入塾して自社課題として捉えたのが自社物件の空きテナントです。はつやま鮮魚店では、4区画を所有していますが、そのうち3区画が空いている状況でした。一方、初山さんが本業を生かして解決できる地域課題として着目したが「買い物難民」。今後、農村部ではますます商店が少なくなると予測される中、いかに地域の皆さんに食を提供し続けられるかということでした。
この両方を解決するために考えたプランが「はつやま横丁」。
まずは、鮮魚店で調理した総菜などを隣の空きテナントで食べられるイートイン居酒屋をオープンし、人が集まり出せば次第に空き店舗が埋まるのではないかという構想です。
このビジネスプランを耳にした4期生の鈴木さんが自身の栽培しているブドウを空きテナント軒先で直売を始めたところ、このブドウが連日完売、予想を上回る人気商品となり、人が集まるようになると、結果として空きテナントに精肉店が入り、本当に「はつやま横丁」が実現したのです。
この事例は、壮大な話ではありません。初山さんが思い描いていた「はつやま横丁」とは少し違うかもしれません。
しかし、小さな一歩を踏み出すことで共感が生まれ、多様な人が集まる場所、コミュニティ、共助をつくることができる可能性を秘めている事例として学ぶべき部分が多いのでないかと思います。
岡本農園 代表/(株)日向屋 代表取締役 岡本 和宜氏(たなべ塾1期)
岡本さんは、高校卒業後、隣町で約8年間サービス業に携わり、26歳の時に生まれ育った上芳養日向地区にて家業である農業を引き継がれ、現在は、「岡本農園 代表」、「㈱日向屋 代表取締役」、「田辺市観光協会 副会長」と多岐に渡る活動をされています。
㈱日向屋は「地域の課題を解決しながら持続可能な地域づくりをする」という理念のもとに活動されています。
現在、農業界は深刻な深刻な課題に直面しています。人口減少、少子高齢化により、農業従事者が減少することで、作付け面積が減少し耕作放棄地の増加、それによる鳥獣害が深刻化といった正に負の連鎖が起こっています。さらにそれに輪をかけるように、日向地区では数年の間、狩猟を行う方がいなくなり、イノシシが爆発的に増加しました。
また、農業に対するイメージも決して良いものではなく、「キツイ」、「汚い」、「稼げない」、「カッコわるい」、「結婚できない」の5Kと言われており、岡本さん自身も、子どもの頃は父親が農業をする姿を見て、農業をしたいとは思えなかったそうです。しかし、実際に家業である農業を引き継いだ際に、父親から、「自分の好きな農業をしろ」経営を一任されてからは、自分が合う農業を真剣に考え、直接人に会って販売する、人と人が交わる農業を始め、農業が楽しい仕事に変化したといいます。
岡本さんたちの最初の挑戦は、鳥獣害対策でした。鳥獣害は、地域の農家共通の課題であったため、地元の農家に声をかけて、みんなで狩猟免許を取り、狩猟を始めると、最初の1年間で120頭の駆除に成功したそうです。
ただ、最初は捕まえた感動と面白さを感じる事ができたそうですが、次第に虚しさを感じるようになったそうです。今後も鳥獣害対策を続ける限り、自分たちの子どもにも同じ思いをさせてしまうという危機感から、駆除した獣を地域資源に変えるようとジビエ加工処理施設の誘致を決意されました。
色々な縁が繋がり、ジビエ加工処理の専門家である湯川さんの招聘が決まり、施設の場所についても、地域の深い理解のおかげで、利便性のよい場所に建設することができたといいます。
また、ジビエ加工処理施設は全国的にも赤字施設が多く、運営が非常に難しいといわれる中、周辺地域へ根気強く協力を求めることで、年間600頭ものイノシシ、シカを受け入れることで、経営も安定させることが出来ているといいます。
さらに、地元出身のシェフが地域に帰ってきてくれたことで、地域内で、「狩る」→「解体」→「食す」という地域内循環モデルを実施出来るようになり、それぞれが、自分の得意な分野で頑張ることが地域課題解決に繋がる良い関係性であるいいます。
現在の㈱日向屋の主要事業は、鳥獣害対策のための狩猟活動、狩猟体験などのジビエ事業、耕作放棄地の再生、農作業の受託、加工品の製造・販売等、多岐に渡りますが、並行して、地域の子供たちへの食育や関係人口の創出、移住者や農業研修生の受け入れをすることで、地域農業を盛りあげる活動もされています。
こういった㈱日向屋の活動は、全国的にも高い評価を受けており、その評価と積上げてきた実績が信頼を生み、新たな縁に繋がっているといいます。
最後は、就農ハードルを下げる新たな基盤づくり、農業イメージの変革と働き方改革を進めていくといった今後の取組についてご説明をいただきました。
「地域課題を地域資源に転換する」全国の地域モデルとなるべく、㈱日向屋の挑戦はまだまだ続きます。
学校教育の中では、基礎から応用へと順番に学びを進めていくことが一般的ですが、海外の大学では、最終的にどの課題を解決したいのかを明確にし、その課題を解決するために必要な知識を学んでいくという考え方があります。
今後の日本の大学教育においても、こうした手法は非常に必要とされるもので、令和8年度に熊本大学に開設する「共創学環」においても取り入れていきたいと考えております。
本日の講義でも、積極的に質問や意見交換をなされており、非常に良い環境の中で未来創造塾が実施されていることを再確認でき、嬉しく思います。
今回、このような合同講義を開催することができましたのも、全国の各姉妹塾の積極的な活動、そして、関係機関の皆様の日々の支援のおかげでございます、この場をお借りして改めて御礼申し上げます。
1日目
2025.07.26
2日目
2025.08.09
3日目
2025.08.23
4日目
2025.09.06
5日目
2025.09.13