3日目

講義:3日目「人口減少のメカニズムと地方創生」

日時:2026年08月29日  14:00~17:00

会場:田辺市役所1階 多目的ホール

■講義「人口減少のメカニズムと地方創生」

講師  熊本大学教授・学長/共創学環長 金岡省吾 教授

地方創生とは

消滅可能性都市からの脱却を旗頭に、地方創生という言葉が生まれました。したがって、地方創生とは、単に地域を元気にすることではなく、人口減少によって生じる地域の担い手不足、地域経済の縮小、病院・学校・商店などの生活サービスの維持困難といった課題を解決し、消滅可能性都市からの脱却を目指すことです。

人口減少によって起こる「負の連鎖」を和らげ、地域で暮らし続けたい、戻ってきたい、関わりたいと思える環境をつくり、人口減少に抗い、その流れに歯止めをかけていくことが、地方創生です。

人口減少のメカニズム

人口が減る理由には、大きく分けて二つの側面があります。一つは出生数が少なくなること、もう一つは地域の外へ人が出ていくことです。

「地域経済分析システムRESAS(リーサス)」の年齢階級別移動数を表したグラフからは、進学、就職、結婚といった人生の転機が訪れやすい年齢での人口移動が多いことがうかがえました。和歌山県、特に紀南地域では、就職や進学を理由に若者が地域外に流出し、大学卒業後や結婚を機に地域へ戻る、あるいは新たに流入する若者もいますが、流出人口が流入人口を上回ることから、「社会減」が進んでいます。

地域外の大学に通い学びを深める、都市部に就職し技術を磨く、こういった選択は決して間違ったものではなく、否定すべきものでもありません。大切なのは、地域課題の解決に取り組む人や企業、すなわちローカルイノベーターの卵が考え、行動することで、出ていった若者が将来的に「戻って来たい」、あるいは「都市部とは異なる魅力がある」と思える地域や環境をつくることです。それが、地方の人口減少を和らげることにつながるのではないでしょうか。

これからの講義を通して、塾生のみなさんには国の動向や社会情勢を十分に把握しながら、人口減少から生じる様々な地域課題(子育て、高齢化、後継者不足など)を知り、自身の本業を活かしてどのような地域課題が解決出来るか、どうすれば地域と企業がwin-winの関係になるかなどを全員で考え実践されることを期待しています。

また、今年度から「たなべ未来創造塾OBOG会Hatch!」による協力体制も整ってくる予定ですので、事務局、OBOG含め全員で盛り上げていければと思います。

若者の意識の変容と修了生の変化

新しい地域活性化の考え方として、2つの地域力の強化が求められています。

・地域課題解決力
・愛着

一つは、地域の課題を自ら克服していく力、もう一つは、その行動やストーリーが共感や愛着を生み、地域の魅力を高め、人々を惹きつけ、地方への新たな人の流れを創出する力です。

実際に、地域課題解決に取り組む行動やプロセスは、若者たちの意識を変容させています。

例えば、たなべ未来創造塾の1期生である岡本さんは、鳥獣害対策を皮切りに、自らが主体となって地域課題解決に積極的に取り組む中で、耕作放棄地の再生や6次産業化といった新規事業に挑戦し、地域内外の人々を惹きつけることで、移住者の増加とそれに伴う新規雇用の創出を実現してきました。その取り組みは、結果として人口減少を和らげる動きへと広がりを見せています。

また、熊本大学の授業や高校での取り組みでは、地域課題に触れた若者たちの反応が確実に変わってきています。地域で働くことに対して「かっこ悪い」「つまらない」と感じていた学生が、実際の取り組みを知ることで「意外と面白い」「地域にも新しい価値を生み出す可能性がある」と考えるようになってきています。

若者が魅力を感じるのは、地域の自然や文化などの資源そのものだけはありません。地域課題に向き合い、地域のために汗をかき、悩みながら挑戦している大人の姿こそが、若者にとって魅力的(「クールな大人」として)に映り、地域を見る目を変えているのです。

地域で活躍するローカルイノベーターの卵である皆さんが、小さな一歩、スモールプロジェクトを始め、クールな大人の背中を示すことで、地域の新しい可能性が生まれていくのではないでしょうか。

■導入講義 人生参加型工務店・高垣工務店

講師 (株)高垣工務店 代表取締役 石山登啓 氏(第2期生)

高垣工務店は創業74年を迎える老舗の工務店です。石山さんは、病気で倒れた当時の社長の後を引き継ぎ、厳しい経営の中、スタッフとともに会社の存続をかけて奮闘し、お客様や地域の若者からも支持をいただける工務店として成長しました。

コミュニティーが武器になる

お客様や地域の人々の支援を受け、会社を立て直していった高垣工務店では、顧客に寄り添い、強い信頼関係を築くことを大切にした結果、日本最大の工務店ネットワーク「JHABnet」において、3年連続で顧客満足度No.1の会社として評価を受けるようになりました。

その後も、顧客の声を聴き、ニーズに真摯に応える企業スタイルが、健康事業デイサービス「きたえる~む」や、発達が気になるお子様やその母親を支援する放課後デイサービス「ハッピーテラス」といった地域のニーズに応える事業に発展していきました。

そうした中、参加した「たなべ未来創造塾」で金岡先生に教わった「コミュニティーは武器になる」という言葉に衝撃を受け、多くの人が集い、繋がり、皆で学び、しゃべって、創造することができる場所つぉして関係案内所「シリコンバー」の創設、「コミュニティー×住宅」という切り口で実施している「高垣タウン」といった事業にも発展しています。

若者が働きたい職場とは

高垣工務店では、若者が働きたい職場作りにも力を入れており、これまで県外の合同説明会にも積極的に参加し、福利厚生ではなく、自社理念をメッセージとして発信することで多くの学生に共感を得て、全国から採用してきました。

その後、県外採用者に関する働き方や課題が見えてきたことで、県外採用を一度止め、働きやすさと働きがいを改めて整え直し、自社理念を社員、お客様にも語るようになりました。その結果、地元採用希望者が増加したといいます。

さらに地域の学校の総合学習に積極的に関わり、地元の子どもたちにも理念や地域で働くかっこよさを伝える活動も行うようになりました。

外に出ることを止めるのではなく、失敗しても戻ってきていい、地元には挑戦できる場所がある、地域の困りごとを解決する仕事はヒーローになれる仕事だと、子どもたちの心に、いつか地元へ戻るための小さな種をまいているのです。

ある中学生は、職業体験の後にこう話してくれました。「地元にこんなすてきな会社があったら、県外に出て行かなくてもいい」。

本業を全力でやること。目の前の困りごとに耳を傾け、自分たちの得意なことで解決すること。そして、その背中を次の世代に見せること。

こうした大人のクールな背中を見せることで、若者たちが「働きたい会社」につながっていくのではないでしょうか。

高垣工務店は、これからも地域のコミュニティーとの深い繋がりを武器にクールな背中で地域に愛され、必要とされる「地元のヒーロー」を目指して歩み続けています。

地域課題に向き合う大人の背中が、結果として若者の意識を変え、人口減少を和らげることに繋がっていくのだと感じた講義となりました。

■グループワーク

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