日時:2025年12月13日 14:00~17:00
会場:田辺市役所1階 多目的ホール
10日目の講義は、全国の姉妹塾、日本YEG、熊本大学生等の方々を田辺市にお迎えし、<未来創造塾田辺合宿2025>として開催しました。
講師には、㈱たがみ 田上雅人氏、太田商店(太田うなぎ店) 太田有哉氏、Restaurant Caravansarai 更井亮介氏を講師に迎え、それぞれの実践事例から “バリューチェーン(価値の連鎖)” “サプライチェーン(供給の連鎖)” について参加者全員で学びを深めていきました。
講師 (株)たがみ 代表取締役 田上雅人 氏
田上さんは、創業81年の米屋として地域の「食」と「食文化」を守る活動をされています。
1995年の食糧法施行による規制緩和を契機に米の流通構造は大きく変化し、米屋の売上は縮小しています。また、地域では担い手不足に伴う耕作放棄地の増加、米農家の大幅減少が進み、めはり寿司・さんま寿司などの食文化の継承途絶も危惧されていました。
こうした中、田上さんは「米屋が生き残るには新しい価値が必要」(自社課題)と考え、「地域の米農家減少、耕作放棄地の増加、地域の食文化の消滅」(地域課題)、双方の課題解決を目指し、米屋自らが農業に参入し問題解決に挑む「熊野米プロジェクト」を立ち上げました。
熊野米プロジェクトでは、和歌山県農業試験場と連携し、台風の多い地域特性に適した品種「ヒカリ新世紀」を採用。梅の加工過程で生じる調味廃液を水田雑草管理に応用し、調味汚泥に梅の種や木の皮、学校給食の食物残渣を混合した堆肥を活用するなど、地域産品である梅を核にした循環型農業にも取り組んでいます。プロジェクトに賛同してくれる農家を一軒一軒探し回り、6軒からスタートし、現在は若手を中心とした8軒の農家と「ここでしかできない米づくり」を実践しています。また、生産者から通常より高い一定価格で買い取る仕組みをつくり、農家所得の向上やUターンによる担い手確保にも寄与しています。
農業参入当初は「米屋が米を作る」ことへの理解が得にくく、地域ルールの学び直しや信頼醸成に苦労したが、粘り強い継続で協働関係を築いてくとともに、農地中間管理機構を活用し自社農地を拡大。技術面ではスマート農業を推進しており、圃場環境データの蓄積・解析、収穫時に収量や成分を可視化する機械、ドローン・各種センサー、スマートグラスによる遠隔支援などを組み合わせに挑戦し、食味の向上と収量増に成果を上げています。
田上さんは、ブランドイメージを保つためには「決して安売りはしない」という方針のもと、独自の販路開拓はもちろん、品質・規格においても責任を取る体制を確立すべく、企業として農産物検査機関の認定を取得し検査員を育成するといった活動にも尽力されています。
また、「熊野米」のストーリーを伝えるため、ホームページで情報発信するとともに、数ある商品の中から手に取ってもらえる商品を目指し、繋がりのあったパリ在住のデザイナーに依頼して、米のパッケージらしくない斬新なデザインを完成させ、商標登録を取得。6次化にも挑戦し、米粉パンやリゾット、非常食向けの缶パンを開発。さらに、人気カレー店の事業承継により、「生産→加工→卸→サービス」までの独自のバリューチェーンの構築。海外輸出にも挑戦し、台湾をはじめ、米の外販ルートの可能性についても研究されており、常に新たな挑戦を続けています。
これらの取組とは別に、地域人材育成・関係人口創出にも注力しており、田植え・稲刈り体験やおにぎりワークショップを通じ、子どもたちに農の現場を体感してもらう機会の提供や、地元高校生・大学生を商談会へ同行させ、食・流通・観光の現場を見て学ぶ機会の創出。たなべ未来創造塾の修了生とは、日本酒「交(こう)」の共同PR、苗木育成・植樹といった「森を守り水を育む」取組も展開しています。これらの活動は、各種メディアの掲載をはじめ、全国的に広い認知と高い評価を受けられています。
田上さんからのメッセージ
講師 Restaurant Caravansarai 更井亮介 氏(4期生)
更井さんは、田辺市内の高校を卒業後、料理人を目指して調理師専門学校へ進学。卒業後、帝国ホテル大阪で経験を重ね、宴会厨房での大量調理や食材流通の現場を経験し、未熟なトマトを追熟させる実務や、休みに農家を訪ねて完熟の味を確かめた体験から素材の本質に向き合う料理を作りたいとの思いから、長野県のフランス料理店に転職。その後、契約農家へ毎朝通い収穫した野菜を使う現場で日々腕を磨きながら、日本ジビエ振興協会の活動に関わりる中、全国ジビエ料理コンテストで最優秀賞を受賞するなど、素晴らしいキャリアを積んできました。
平成30年のUターン前には、㈱日向屋の岡本氏らと「上芳養でジビエを知る会」を企画・開催。この時の繋がりが、後のゲストハウスthe CUEでの活動に発展していったといいます。 the CUEでは1年半の間腕を振るい「ジビエバーガー」を開発する等、地域食材を活かした新たな料理を手掛けました。
その後、たなべ未来創造塾4期生として参加し、修了式を迎えた直後の令和2年3月には50年前に祖父が建てた梅蔵をリノベーションし、農村地域である上芳養地区についに「Restaurant Caravansarai」をオープンさせました。
「Restaurant Caravansarai」では、たなべ未来創造塾1期生の岡本さんが代表をつとめる㈱日向屋やひなたの杜(ジビエ処理施設)と連携し、地元食材を活用したジビエ料理を提供する傍ら、更井さんがホテル料理人であった頃から業界課題として考えていた、生ごみの有効利用の一環として堆肥化(コンポスト)に取り組んでおり、出来上がった堆肥は、㈱日向屋が管理する畑に戻し、その畑の食材をレストランで提供する地域循環型の取組を実施されています。
こうした取組が評価されたこともあり、「ミシュランガイド京都・大阪+和歌山2022」に掲載されるとともに、ビブグルマン(価格以上の満足感が得られる料理)とミシュラングリーンスター(持続可能な取組を評価)を獲得され、多くのメディアにも取り上げられる人気店となりました。
レストラン以外の活動にも注力しており、地元田辺市上芳養をはじめ、県内の小中高校や大学で「いただきます」の意味を伝える授業を継続して開講、2020年度和歌山県食育推進協議会食育表彰も受賞されています。今年度は、和歌山県立南部高校と連携し、3日間限定の「高校生レストラン」を企画、調理師免許取得制度がある南部高校の卒業生たちが先を目指すきっかけづくりにも取り組まれています。その他、「まなびのいりぐちプロジェクト」として食育絵本を展示する「キャラバンサライ文庫」を創設しています。
また、身近な困りごとの解決にも取り組まれており、コロナ禍では酒販店とコラボし日本酒付きオードブルを販売、梅の収穫期(梅雨)にはレストランを休業して農家向け弁当販売を空き家で展開、家事負担軽減を目指しガス事業者と協力し地域のコインランドリーを整備するといった活動も実施しています。
近年は、廃棄される梅の種に着目し、「みんなの梅仁豆腐365」を2023年に商品化。安全性の確保、デザイン・ネーミング、補助金活用などのハードルを乗り越え、年間約1,000個の販売するまで成長したといいます。資源循環と新たな地場産品の創出を同時に実現しています。
講義の最後、更井さんは「人口減少という大きな課題は一人では解決出来ないが、小さな困りごとは解決出来ると思います。まずは身近な悩みから一歩目を踏出して下さい。また、一人では難しくても協力すれば出来るかもしれません、協力しながら皆で地域課題を解決していきましょう」と参加者にエールを送り講義を締めました。
講師 太田商店(太田うなぎ店) 太田有哉 氏(3期生)
太田さんは、田辺市内の高校卒業後に調理師専門学校へ進学、大阪で日本料理店の料理人や鰻問屋での鰻の調理、百貨店での販売やテナントの店長などを約10年経験し、故郷田辺に戻り、1936年創業の家業・持ち帰り専門の鰻屋「太田商店(太田うなぎ店)」の4代目となりました。しかし全国的なシラスウナギの不漁により原価がこの10年で倍増、蒲焼は価格を1500円から3000円超に上げても利益が出にくい「創業来最大のピンチ」に直面し、このまま鰻屋を続けるべきか、何度も家族会議を重ねたそうです。そんな中、たなべ未来創造塾に出会い、何か新しいチャレンジのきっかけになればとの思いから3期生として参加しました。
着目したのは田辺の特産・紀州南高梅です。鰻と梅は「食べ合わせが悪い」という江戸期からの迷信がありますが、これを逆手に取り「鰻と梅の仲直りプロジェクト」を構想しました。両者の課題を並べて分析すると、共通項(若者離れ、毎年の原価変動)が多く、さらに梅では形・傷により価格が大きく下がる規格外品問題、鰻では和歌山が特産地ではないというブランド課題が見えきました。そこで、梅の規格外品を適正価格で買い取り価値を下げずに活用しつつ、鰻には「紀州南高梅」という強い地域ブランドを付加して、販路拡大を狙ったコラボ商品「紀州南高梅ひつまぶし」を開発しました。また、商品パッケージをポップなものにし、若者に注目されやすくすることで、双方の課題である若者離れの解決を試みました。
そして「鰻と梅の仲直り」という迷信を逆手に取ったストーリー性や、地域課題解決といった特徴も相まって、地元紙をはじめ各種メディアでも多数取り上げられ、この商品は令和元年度のプレミア和歌山特別賞(最高賞)を受賞しました。
次に太田さんが取組まれたのは「地域内循環」です。たなべ未来創造塾生2期生の野久保さん(農家)と協力し、鰻を捌いた際に出る骨を利用した肥料を畑で活用してもらい、逆に梅の選定枝をチップとして利用した鰻の燻製を作成し、お互いの“不要”を“要”に転換。
たなべ未来創造塾7期生の堀部さん(炭焼き職人)とも協力し、紀州備長炭の製炭過程で生じる灰を活用した「鰻の灰干し」を開発し、副産物を収入化する持続可能なコラボを実現しました。こうした取組みは「特産ではない鰻」に地域性を付与し、販路拡大するとともに、主力商品である「鰻の蒲焼」の品質も向上し売り上げも増大、企業利益にも結び付いているといいます。
太田さん曰く「文化や特産品はストーリーの積み重ねから成り立っています。小さくても地域の課題を盛り込んで、積み重ねればストーリーが生れます。自社の課題とその地域の課題を理解して取り入れていくことで特産品が生れる可能性があります。そう考えると課題の数だけビジネスチャンスがあるのではないでしょうか」と参加者に問いかけ講義を締められました。
参議院議員 鶴保庸介 氏
令和7年度日本YEGアカデミー委員会委員長 篠田 佳宗 氏
熊本大学副学長・熊本大学研究開発戦略本部地域連携戦略部門長 金岡 省吾 教授
1日目
2025.07.26
2日目
2025.08.09
3日目
2025.08.23
4日目
2025.09.06
5日目
2025.09.13
6日目
2025.09.26
7日目
2025.10.18
8日目
2025.11.15
9日目
2025.11.21
11日目
2025.12.20