8日目

講義:空港型地方創生への挑戦

日時:2024年11月02日  14:00~17:00

会場:田辺市役所1階 多目的ホール

(株)南紀白浜エアポートが捉えた地域課題とその解決に向けた戦略、ターゲットの絞り方について、実践事例を交えながら学びました。

■講義「空港型地方創生への挑戦 ~戦略編・具体事例編~」

講師 (株)南紀白浜エアポート誘客・地域活性化室長 森重良太 氏

森重さんは福岡県出身で、東京の大学を卒業後、大手企業(NEC)や経営共創基盤(IGPI)を経て田辺市に移住。現在は㈱南紀白浜エアポートの誘客・地域活性化室長として、「空港型地方創生」に取り組まれています。

㈱南紀白浜エアポートが管理運営する南紀白浜空港をはじめ、地方空港の多くは赤字経営という厳しい状況の中で運営されています。そうした中、安定した経営のためには、コスト削減等による経営改善・改革が必須ですが、安全・安心の確保から限界があります。

そこで、(株)南紀白浜エアポートは「空港の発展は、地域の発展から」をコンセプトに、誘客と地域活性化の専門部署を設け、観光やビジネスによる需要そのものを創り、紀南エリア全体の活性化を推進していく。

そうすることにより、地域の玄関口である空港の価値を高めようと活動しており、着地型旅行事業や地域連携DMO等の地域に人を呼込み、地域を更なる魅力を創りあげる取組に注力しています。

地域の活性化戦略を立てる際に、森重さんが地域課題として捉えたのは、

a.「人口減少」(内需に依存した経済構造)
b.「需要の偏差」(繁忙・閑散期の格差)
c.「消費の低さ」(日帰り客の多さ、購買機会の少なさ)

これらを解決するための活性化の方向性を

a.「関係人口の増大」
b.「非ピークの底上げ」
c.「長期滞在、広域周遊」

と定め、「ターゲット顧客の絞り込み」を行いました。

この「ターゲット」を絞るということは、言い換えればターゲット以外は「捨てる」という選択でもあり、大変勇気の要ることですが、限られたリソースの中で競合と戦うためには必要な選択でもあります。

では、どのような層を「ターゲット」と定めたのでしょうか。

地域資源との相性が良く、非ピークに来訪してもらえて、高い消費単価。

(株)南紀白浜エアポートが狙いを定めたのは、「ビジネス客」、その中でも、特にワーケーションの誘致に力を注ぐことで、「平日需要の底上げ」、その先に企業誘致による雇用創出・移住定住を目指しています。

では、ワーケーションに求められる要素とは何なのでしょうか。

㈱南紀白浜エアポートは、以下のように差別化しました。

〈観光〉観光客向け地域体験

・地域のハード(観光資源)を売る
・地域の良いところを見せる
・2度3度来ても同じような体験

〈ワーケーション〉企業向け課題解決プログラム

・地域のソフト(人・文化)を売る
・地域の課題に関わってもらう
・来た回数だけ地域とのつながりが深まる

また、ワーケーションのプログラムを創る上でも、地域と企業には以下のような特徴があると分析しました。

〈地域の特徴〉

・社会課題はあるが解決策がない
・当事者意識は強いが経済性が弱い
・全体最適に強いが専門性が低い

〈企業の特徴〉

・解決策はあるが社会実装の場がない
・経済性は強いが当事者意識が弱い
・専門性は高いが全体最適に弱い

こういった特徴から、人口減少を起因とする多くの地域課題を抱える一方で、豊かな自然や歴史、文化、食、そして魅力的な人材など、多くの地域資源を有する紀南地方は、企業側にとってはワーケーションに最適な地域であることを押し出し、ワーケーションを通じて、社員にはウェルビーングの向上を、企業にはエンゲージメント強化(生産性・創造性・組織力の底上げ)、地域には地域経済活性化(関係人口と新たな消費機会の創出)といった、3者がwin-winの仕組みを実現し、観光とは異なる新たな地域との関わり方を創出しています。

このようにターゲットを定め、そのニーズに最適化していくことで、ワーケーションの先進地となり、南紀白浜空港の利用者数は民営化後の5年間で約2倍となりました。

また、サテライトオフィスを設ける企業も増えており、少なからず都市企業の地元雇用も増えつつあります。

民間企業による地方創生、こういった民間の取組が地域に活力を与えていく、CSVの重要性を改めて考える講義となりました。

■グループディスカッション