5日目

講義:5日目 未来創造塾 2026合同講義

日時:2026年09月25日  14:00~17:00

会場:田辺市役所1階 多目的ホール

「地域課題解決とビジネスの両立」~小さな実践が、次の課題解決と新たなビジネスにつながる~

■挨拶

熊本大学理事・研究開発戦略本部長 大谷 順氏

日頃からの同塾運営への協力に対する関係者へ感謝とともに、7月に熊本県内で発生した地震で被災者へのお見舞い、一日も早い復旧・復興をお祈り申し上げます。

未来創造塾は、地域課題を解決するCSV(共通価値の創造)人材の育成と、地域でのビジネス実装を目指して展開されてきた取り組みです。昨年度までに修了生は541名に達しており、本年度は熊本県内の地域に加え、田辺市、南砺市、小松市、新たに八戸市などの県外にも活動の輪が広がっています。さらに、熊本大学と日本商工会議所青年部(YEG)との連携により、桐生市・蒲郡市・相模原市でも取り組みが進むなど、人材育成のネットワークは全国へ広がりを見せています。

今後は、未来創造塾を実施する地域を中心に、熊本大学の「フィールドキャンパス」を設置し、企業や事業者、教育機関、自治体が連携し、人材育成や地域課題の解決、新たな事業創出が継続的に生まれる持続可能な地域エコシステムをつくっていきたいと考えています。

■講義「人口減少から生じる地域課題」

講師 熊本大学教授・副学長/共創学環長 金岡 省吾氏

日本の人口推移のグラフを見ると、今は人口が減少しています。人口が増える時代と減る時代では地方、地域活性化の考え方が異なります。

人口増加期の施策としては、成長の極戦略として、港のインフラ整備と重工業誘致など、列島改造として高速道路・新幹線建設による物流と人の流れの活性化、テクノポリス構想として、中枢都市機能の集積(札幌、仙台、広島、福岡等)などがありました。これらの政策は、東京、大阪、名古屋など大都市への人口流出を食い止めるためのものでした。

しかし、時代が変わり、人口減少の段階に入った今、地域の消滅を防ぎ、人口減少をある程度の水準で安定させる地方創生が重要になってきました。

人口流出のメカニズムについてはこれまでの講義でもお話ししましたが、若者が進学や就職で地域を離れ、「地元には仕事がない」「格好悪い」といった意識から、地方に戻ってこない負の連鎖が起きています。この負の連鎖を断ち切る必要があります。

未来創造塾が実施されている地域では、広範囲で人口が減少している実態があります。

人口が減少すると、バス、路線バスの減便の問題のほか、商業施設なども成立しなくなってきます。一定の人口規模を下回ると商業施設なども撤退を余儀なくされることになります。人口減少による「地域課題」としては、日用品の買い物難、ガソリンスタンドの閉鎖などの日常サービスに関連する課題など多岐にわたります。これらの問題は田舎だけではなく、横浜や東京など都会の住宅団地でも同様に起きています。人口減少による労働力不足が、生活環境の悪化、耕作放棄地の増加、学校や病院の閉鎖などを引き起こしています。

このような課題について、塾生皆さんそれぞれが自身の事業と絡めて考えてみてください。10年後、20年後、30年後、どのような形になっているでしょうか。

「地域課題に取り組む意義」

地域課題の解決策として「小さな拠点」があります。企業や商業施設などが撤退した後、必要な事業を住民出資で運営するケース、診療所がバスを運営するケースなど、困難な課題をチャンスと捉え、地域でサービスを維持しようとする人々が出始めています。

それぞれの未来創造塾でも、空き家利活用、地域交通サービス、居場所づくりなど様々な取り組みがあります。

地域に暮らす人たち自身が課題を見つけ、そこから新しい動きを生み出していく。この考え方は、国土形成計画の中でも示されている「地域発イノベーション」、いわゆるローカルイノベーションにつながります。将来の人口や地域構造を見据えながら、「自分たちの地域では何が課題なのか」「その課題に対して、どのような解決策をつくれるのか」を自分たちで考えていく。その問いを立てることが、次の行動を呼び込む出発点になります。

地域の課題を解決することは簡単なことではありませんが、その一歩を踏み出してみると様々なことが起こっていきます。地域課題に取り組む姿勢が、自身と周囲の意識変容をもたらし、新たな地域課題発見、新たなつながり創出、新たなビジネスチャンスを生み出し、地域の未来につながっていくのです。

■講義 事例紹介

熊本大学地域連携戦略部門 地域連携UA 長谷部 大輔氏

3件の各地域の修了生の地域課題解決事例を紹介。

・たなべ未来創造塾 太田商店(3期生)

和歌山県田辺市でうなぎ屋「太田商店」を経営する太田さんの事例。

太田商店の課題は、うなぎの原価高騰、自店のうなぎの知名度不足でした。
一方、紀州南高梅は、ブランド力は高いが規格外品で価格が下落するという課題がありました。

そこで、解決策として「うなぎと梅の仲直りプロジェクト」を考案しました。食べ合わせが悪いとされる鰻と梅をあえて組み合わせて販売することで、梅農家は規格外品を高く売ることができ、太田氏は梅のブランドを活用してうなぎを売るwin-winの関係を構築しました。

その後、うなぎの骨を梅農家の堆肥に利用や紀州備長炭の灰と組み合わせた特産品を開発、耕作放棄地での山椒栽培を計画、さらには天草の雑節職人とのコラボ商品を開発するなど、期や塾の垣根を越え次々と課題を新しいビジネスに繋げています。

・あまくさ未来創造スクール エントレメッツ㈱/栄美屋旅館(3期生)

天草で家業の旅館を継いだ元Jリーグクラブコーチの上村さんの事例。

当初の旅館を「観光客、地元の人、子どもたち、競技者などをつなげる場所」にするというビジョンのもと、実際に旅館を改装したカフェの併設、スポーツクラブの設立、マルシェの開催やスポーツ合宿の誘致など取組みました。

次第に取り組みはさらに大きくなり、ビジョンは「スポーツ、教育、観光、国際交流を通じて天草から世界につながる未来を作る」という壮大なものに拡がり、進化していきました。さらに株式会社メントレネッツを設立し、スポーツアカデミーの立ち上げやラオスのプロチーム買収などへと進んでいます。天草で小さく始まった複数の事業が人と繋がり、世界にまで広がるような地域の仕組みとして育っています。

・やつしろ未来創造塾 ㈱THREE ARROWS(5期生)

八代の個人農家3軒で会社「THREE ARROWS(スリーアローズ)」を立ち上げた山本さんの事例。

当初のビジネスプランは 廃棄野菜と自身の母校だった廃校の活用。「捨てるものを地域に人を呼ぶ価値へ変えるということをテーマに「キッチンカープロジェクト」を立ち上げました。その後、高森町の方と出会い、現在は「野菜のテーマパーク構想」を掲げ、拠点や地域の他、事業内容も「販売」から「体験・観光・交流」へと拡大しています。取り組む課題や場所は変化していますが、「使われていないものを価値あるものに変える」「地域を元気にしたい」という根幹の思いは一貫しています。一つの地域で始めた実践が、新しい地域との出会いにより、別の課題、事業へ横展開しています。

■講義 事例紹介「地域課題に立ち向かう農人と森の番人プロジェクトチームひなた」

(株)日向屋 岡本和宜(たなべ未来創造塾1期)

高校卒業後、隣町で約8年間サービス業に携わり、26歳の時に生まれ育った上芳養日向地区にて家業である農業を引き継がれ、現在は、「㈱日向屋 代表取締役」、「田辺市観光協会 副会長」と多岐に渡る活動をされています。

活動拠点である和歌山県田辺市上芳養地区が直面する課題は、少子高齢化、空き家、耕作放棄地の増加など多岐にわたります。また、「5K(きつい、汚い、カッコ悪い、結婚できない、稼げない)」というネガティブなイメージにより、子ども達が「農業をしたい」と思える環境になっていません。

特に深刻だったのは、7年前から急増したイノシシやサル、シカによる鳥獣害です。被害は農業にとって死活問題となってきました。鳥獣害が増加した原因は、高齢化によるハンターの激減と、耕作放棄地の増加による動物の繁殖環境の拡大にありました。

そこで「私たちの畑は私たちが守る」という思いで、地元農家5名と狩猟チーム「TEAM HINATA」を結成しました。1年間の活動で約120頭捕獲し、被害は激減しました。しかし、捕獲した動物を殺処分する際の精神的負担が大きく、捕獲を持続可能にするため、ジビエを地域資源として利活用する方向に転換することにしました。

ところが当初、県の畜産課からは、民設民営のジビエ解体施設の黒字化は困難、と指摘されました。しかし、赤字の原因が捕獲頭数の不足にあると突き止め、年間600頭の捕獲目標を設定しました。JAに協力を仰ぎ、鳥獣害の課題を共に抱える約80人の協力者を得て、2年目で目標頭数確保を達成し、ジビエの安定供給が実現。販路開拓も行い、取引先が60か所以上になり、事業を軌道に乗せることができました。

この成功要因は、共通の課題を持つ農家が集まり、旗振り役が方向性を示したこと。そして、重要なのは、ボランティアではなく、持続可能な仕組みを構築し黒字化させることだと思います。

「地域全体を良くしたい」という共通の想いで、地域課題の解決とビジネスモデルを目指す3社の協動体(「狩る→解体→食す」の循環モデル)として動いています。

  • 株式会社日向屋:農業生産、農作業受託、加工製品製造販売
  • ひなたの杜:ジビエ処理施設の運営
  • caravansarai:ジビエの活用、地域活性化

日向屋の主要事業

・鳥獣害対策とジビエ活用事業
地域の厄介者を資源に転換し、「地域課題」を「地域資源」に変換し、高品質なジビエの提供と狩猟体験を実施。

・耕作放棄地再生と農作業受託事業
未来塾修了生でもある地元林業会社(㈱中川)と協力し、これまで6ヘクタールの耕作放棄地を再生し収穫量も増加。また、高齢者農家のサポートも実施。

・加工品製造販売
自社農園のみかんや梅を使用し約20種類の商品を展開。また、商品を通して地域外へも取り組みを発信し、関係人口の創出にも努めています。

・地域をみらいにつなぐ人材育成
保育園から高校生などの地元の子どもたちへの食育、職業体験。、その他、移住者や農業研修生、越境学習の受け入れなども実施。中でも特に力を入れているのが、新規就農者を増やすための農業研修生の独立支援です。再生した耕作放棄地を提供し、生産から加工、販売まで学べる体制を整えることで、経営できる新規就農者を育成しています。

これらの活動は、地域の課題を解決しながら新たな価値と収益を生み出すCSV(共通価値の創造)の実践そのものと言えるのではないでしょうか。

今後の展望としては、食べていける新規就農者を増やすことが課題解決の鍵だと捉え、これらの取組みを見て就農希望者が自然と集まるような「サーキュラーファーマープロジェクト」の推進。農業をしたいという子たちの意識をさらに次の高みへ伸ばしていくことも重要な役割の1つです。

獣害対策から始まったこの事業は、現在は新規就農者を増やすことで獣害を抑制するという持続可能な循環モデルに発展しています。地域課題を地域資源に転換する全国の地域モデルを目指してこれからも挑戦していきます。

地域課題を解決する力と、地域への愛着で人を引きつける力。この二つが重なることで、地域には新しい動きが生まれ、自分自身だけでなく、周囲の意識にも少しずつ変化を起こし地域の未来をつくる一歩になっていくのです。

今回紹介された事例など、真似ることから深め、課題を見つけ、提案し、まずは小さく動いてみることに挑戦することの大切さを改めて感じる講義となりました。

■ワークと共有