2日目

たなべ未来創造塾 第6期開講式

日時:2021年07月31日  13:30~16:30

会場:田辺市文化交流センター たなべる 2階 大会議室

田辺市と熊本大学熊本創生推進機構の共同主催により、地域課題をビジネスで解決する人材の育成とビジネスモデルの創出を目指した「たなべ未来創造塾第6期」の開講式が行われ、令和4年2月までの約8か月にわたる取組がスタートしました。

検温、手指消毒の実施、アクリルパテーションの設置など感染防止対策を徹底するとともに、リモートも活用しながらの運営となりました。

開会挨拶

たなべ未来創造塾長・田辺市長 真砂充敏

田辺市では、市街地活性化施設「tanabeタナベ enえん+プラス」や、扇ヶ浜、新武道館など、紀南の拠点にふさわしい基盤整備を進めてきました。

しかし、このようなハードが整備されたとしても、そこで活躍するプレーヤーこそが重要だという思いから、平成28年度より次代の地域を担う人材育成を目指し、「たなべ未来創造塾」を創設したのが経緯です。

これまで5期58名の修了生を輩出し、修了生同士に加え、修了生以外の地域内外の皆さんとの連携も進んでおり、今では田辺市のまちづくりに関して「たなべ未来創造塾」が占めるウエイトが大きくなってきていると実感しています。

また、首都圏において開催している関係人口養成講座「たなコトアカデミー」には、修了生に大きく関わっていただいており、ほかにも首都圏企業の若手社員と修了生が一緒にプロジェクトを考え実行する「ことこらぼ」など、地域の中だけではなく地域外との新たな関係性も築いています。

こうした中、コロナの影響で大きな岐路に立っているが、ピンチと考えるのではなく新しい価値を生み出す契機と捉えていくことが重要だと思っています。

そのため、国内の新たな需要を見出そうと、低山トラベラーにターゲットを絞った「熊野リボーンプロジェクト」を始動するとともに、新たな地域の担い手育成に向け、小さな仕事を生み出す「たなべプチ起業塾」などの取組にも着手しているところです。

また、昨年度から富山県南砺市と熊本県八代市で姉妹塾が立ち上がっており、今年度から新たに玉名市、天草市、阿蘇広域でも創設されることとなっており、「たなべ未来創造塾」が全国に広がりを見せています。

全国どの自治体でも地方創生を推進していますが、その成功事例の一つとして「たなべ未来創造塾」が高い評価を受けるようになったと言えるかと思います。

しかし、甘んじることなく、さらにステップアップさせていくことが必要です。

来賓挨拶

近畿財務局和歌山財務事務所長 木村由典 氏

新型コロナウイルスの影響下で開催までこぎつけられたこと、関係者の皆さんのご尽力に敬意を表したいと思います。

近畿財務局では、地域貢献を果たすべく各地で様々な取組をしており、「たなべ未来創造塾」については、平成29年度の第2期からお手伝いをさせていただいています。

財務省広報誌「ファイナンス」において、「たなべ未来創造塾」について寄稿いただきましたが、掲載後、本省や他県の財務事務所長などから連絡があり、一様に感心していました。私どもとしても大変誇らしく感じています。

田辺市の取組は、少子高齢化を抱えるほかの地域にとって非常に参考になるはずです。引き続き、大いに宣伝させていただきたいと思っています。

6期生の中には不安を感じている方もいるかもしれないが、この塾には5期の経験が蓄積されているので、関係者や修了生を大いに頼っていただき、素晴らしいビジネスプランが生まれることを期待しています。

ソトコト編集長 指出一正 氏

ご縁があり、田辺市の皆さんと一緒に「たなコトアカデミー」という関係人口の講座を開催しています。首都圏に暮らしながら地域に関わりたいと思っている若い皆さんと一緒に田辺のことを学びながら、地域で新しいことを一緒に始められたらというプロジェクトです。

たなべ未来創造塾6期生には、「たなコトアカデミー」修了生も参加しており、今後の講義を通じて、皆さんのローカルプロジェクトがどうなっていくか大変楽しみにしています。

SDGsは、誰一人取り残さないという世界の開発目標。何人たりとも受け入れるという熊野の精神文化は、まさにSDGs。循環型のローカルプロジェクトが生まれ、楽しみながらコミュニティを作っていく田辺市が持っている資産は世界に発信できる最高級のものです。

5年後、10年後、30年後に自分たちはどうなっていたいか。ということを考えると社会は変わってきます。たなべ未来創造塾ではそのレッスンが行われると思います。自分の好きなことを真ん中において、新しいビジネスやプロジェクトが生まれることを期待しています。

オリエンテーション
~たなべ未来創造塾が目指すもの~

熊本大学熊本創生推進機構 金岡省吾 教授

シンクタンク時代に様々な計画書づくりをしてきましたが、第三者が作ったプロジェクトは動かないということに気づき、動く仕組みをつくろうと富山大学に転身しました。

富山大学では、「産学官金」で地域課題をビジネスで解決する人材を育成するプロジェクトに取り組み、イノベーションネットアワードで優秀賞を受賞、内閣府まち・ひと・しごと創生本部「人材・組織の育成及び関係人口に関する検討会」に招聘されるなど、評価されるようになってきました。

講義を聞くだけでなく、ディスカッションを通じて自分たちで考えていくことで行動へとつながっていきます。

地域課題に絡むことによって、多くのローカルイノベーションが生まれ、実際に、魚津では約70名の修了生、60%近くが実行しています。

こうした取り組みを移転したのが「たなべ未来創造塾」です。

「たなべ未来創造塾」からは、多様なローカルイノベーションが生まれ、内閣府ではこゆ財団モデルと田辺モデルという二大モデルとして紹介されるようになりました。昨年度には熊本県八代市、富山県南砺市へと広がり、今年度からは熊本県玉名市、天草市、阿蘇地域で姉妹塾が創設されます。

田辺市では全国平均より早いスピードで人口減少が進みますが、このことが起因となり、様々な地域課題を引き起こします。しかし、こうした地域課題をビジネスで解決することができれば、地域と企業のwin-winの関係性が構築でき、人口減少を歯止めしていくことが可能となります。

そのため、“塾”は地域にとって必要なのです。

今や若者は、地域課題をビジネスで解決することが地方創生の最先端であるとして“かっこいい”と感じ、関わりたいと思っています。

企業の採用も変化しており、人材不足が叫ばれる中、地方創生に関与することで優秀な人材を確保しようとしています。これは大企業に限ったことではなく、地方の中小企業でも同様で、実際にたなべ未来創造塾修了生には実践を始めている者もいるのです。

地域課題の中にビジネスチャンスが転がっています。
しかし、これは見方によって。
ここに気づけるかどうかが大きな分かれ目なのです。
小さくてよいので、新しい一歩を踏み出してほしいと思っています。

田辺市たなべ営業室 鍋屋安則

2020年国勢調査の速報値において、田辺市の人口はついに7万人を切りました。

全国平均より早いスピードで人口減少が進んでいるのです。

人口減少が起因となり、生活関連サービスの減少、空き家・空き店舗の増加、学校の統廃合など様々な地域課題を引き起こします。こうしたことが雇用の減少や地域コミュニティの低下につながり、さらに人口減少を加速させることとなります。

そのため、誰もが住み続けられる地域、持続可能な地域を創ろうと、市長の強い思いから平成26年にたなべ営業室を創設しました。

具体的にどう進めるかという中で、当時、富山大学で既に実践されていた金岡教授と巡り合い、田辺市で一緒にやってもらえませんかとお願いしたところ、金岡教授の答えは“コンサルへの丸投げは絶対にするな、行政職員が自ら考え汗をかけ”その覚悟があるなら協力するということでした。

その後、様々なことを学ぶ中で、特に重要なのは地域課題をビジネスで解決することで地域と企業が共通価値を創造するCSVという考え方です。

こうした考えを具体的に実践するため、「産学官金」が一体となった支援体制を構築したうえで取り組んでいるのが「たなべ未来創造塾」。平成28年に創設し、5期58名の修了生を輩出してきました。

これまで多様なローカルイノベーションが生まれ、様々な媒体で掲載されるようになり、「まち・ひと・しごと創生本部」のゲストスピーカーとして招聘されるなど、全国からの注目が高まっています。

その理由は、
①72.3%という実行率の高さ
②修了生同士がつながってビジネスが自走

一つ一つは小さいかもしれない。

しかし、それらをつなぎあわせることで面にし、地域の大きな力にしていく。

「たなべ未来創造塾」では、こうしてみんなで地域を創っていくことに取り組んでいるのです。

講義を通じて、地域課題の中にビジネスチャンスがあるということに気付いたら、小さくて良いので一歩踏み出してほしいと思っています。

塾生自己紹介

塾生が各自1分以内で自己紹介を行い、企業情報や事業内容、参加の動機、抱負などを話しました。

トークセッション
テーマ「これからの時代に求められる価値創造とは」

パネリスト
真砂充敏(たなべ未来創造塾長 田辺市長)
木村由典 氏(近畿財務局和歌山財務事務所長)
武藤純司 氏(日本政策金融公庫田辺支店長)
会場の皆さま

コーディネーター
金岡省吾 氏(熊本大学熊本創生推進機構・教授)

<金岡教授>
新型コロナウイルスによる田辺市の影響とこれまでの支援策は

<真砂市長>
コロナの影響は多岐にわたっているが、どう考えるか。市町村の取組によって温度差があるが、コロナの影響をどう捉えて、どう対応するのかを十分考えなければならない。観光、飲食、交通などに大きな影響がでているが、国や県の施策を見ながらより効果的な経済対策を講じつつ、感染防止対策を並行で取り組んおり、これまで20億円もの予算を投じてきた。これからも状況を見ながら的確な施策を講じていきたい。

<金岡教授>
和歌山県内における新型コロナウイルスの影響は

<木村所長>
四半期に一度、地域の経済情勢を発表しているが、近々発表する内容については、「コロナの影響で厳しい状況が続いているが、持ち直しつつある。」
まだまだ厳しい状況であることは十分認識しているが、個人消費や生産活動は緩やかに回復傾向、雇用情勢も緩やかに回復していると認識している。

<金岡教授>
地域への感想、コロナによる地域事業者への影響は

<武藤支店長>
今年の3月26日に配属となったばかりで、コロナの影響のため、くまなく回ることはできていない状況ではあるが、堅実な事業者が多い印象。人口減少が進む中、今後、事業承継が重要になると考えている。
資金需要を見ると、第一四半期109.1%(前々年比)と比較的落ち着いている。また、創業は144%(前年比)とコロナ禍においても新たな仕事が生まれていることがわかる。

<金岡教授>
コロナ禍で新たな運営方法、新たな事業へ着手する理由は

<真砂市長>
“新たな”ということがポイントとなる。大きな時代の変わり目ということは間違いない。働き方、暮らし方が変わるのが一つ。もう一つはデジタル化。未来塾の運営についてもリモートを活用しながら新たな方法を模索してきた。

田辺市の観光は、インバウンドに大きな比重があったが、今はほぼゼロ。必ず帰ってくると思っているが、今のうちに新たな需要を掘り起こすことにチャレンジしていく必要があると認識する中で、国内の低山トラベラーをターゲットにした「熊野リボーンプロジェクト」に着手した。また、教育分野である修学旅行などの可能性も模索していく必要がある。

さらに、「たなべプチ起業塾」も始めているが、地域の新たな担い手を育成し、小さなビジネスを生み出そうというものも大事だと思っており、こうした施策を連動させていきたい。

 

<金岡教授>
アフターコロナ、ウィズコロナに向けた金融行政の役割は

<木村所長>
金融庁では、金融機関に対し、事業者に対する柔軟な資金繰り支援を要請してきた。次の段階として、コロナ前の状況にどこまで戻るのか、どう変化するのかなどを見定めながら、金融機関が事業者の業務転換等をサポートしていただくことが大事になってくるのではないかと思っている。支援した地域事業者が潤うことで、金融機関の業績に好影響を与えるという関係が進むように後押ししていきたい。

<金岡教授>
アフターコロナ、ウィズコロナに向けた金融行政の役割は

<武藤支店長>
収束が見えない中、緊急避難的な対応が最優先となっている。中長期的な視点としては企業課題の把握に努め、事業継続支援をしていくことが重要。

事業者との緊密な連携を図る必要があるが、一金融機関では困難な部分もあるため、商工会議所等関係機関とも連携しながら取り組んでいきたい。地域の金融機関とは協調融資を増やしており、情勢が整ってきていると感じている。コロナ禍でニューノーマル、新たな事業形態も生まれてきている。そのため、事業性評価がより重要になることから、金融機関としても柔軟性を持たなければならないと感じている。

<金岡教授>
市としての今後の施策と塾生に期待することは

<真砂市長>

コロナ禍で地元経済を刺激することが重要であるため、プレミアム商品券などに取り組んできた。また、地域の皆さんが地元を知り地元を応援してもらおうと「じもたび」「じもたべ」にも着手している。

コミュニティ力低下への対応として、「小規模多機能自治」についての研究を進めているが、未来塾修了生の皆さんの地域課題をビジネスで解決するという取組と連携することでコミュニティ力の再構築につなげていけないかと思っている。

また、たなべ未来創造塾の取組が、他の地域へ波及することで、地方と地方との共創による新たな価値創造にも踏み込んでいきたい。

<金岡教授>
地方創生人材の育成に向けて、田辺市、公庫田辺支店、八代市、公庫八代支店、熊本大学の5者で覚書を締結する。また、天草市、玉名市、阿蘇地域を含めてノウハウを共有しながら新たな共創の場を創っていきたい。

協力・後援機関・講師からのエール

  • 田辺市はポテンシャルが高い。観光、産業…。皆さんのチャレンジを金融機関の立場からサポートしていきたい。

  • 未来塾のように継続して取り組んでいくことで、つながりをつくっていくことが大切。市長自らも開講式に参加され、本気度を感じる。

  • 事業を継続していくということは大変なことだと思うが、いろんな方のサポートや人脈が大切だと思う。

  • 地域課題解決への熱い思いを持っているのはすばらしい。

  • コロナでいろんなことが様変わりした。ゲームチェンジ。こうした中、次の時代をともに切り拓いていくような塾にしていければ。

  • 仲間がいるのはうらやましい。次の時代を創っていく熱に触発されながら私も取り組んでいる。事業承継にも着手しているが、やりたいという人がいれば店を譲るということもしながら地域の仕事を生み出していければと考えている。今後も幹を大切にしながらいろんな枝葉を創っていきたい。

修了生からのメッセージ

  • 5期生でコロナ禍での受講となったが、コロナの中でも仲良くなれる場を創ろうと考えた。絶対に仲良くなれるし、新しい事業もできる。

  • この塾は思ったより大変。塾生同士それぞれの強みを生かしたディスカッションが生まれ、チームとなることで、素晴らしいビジネスプランができると思う。

  • 最初はすごく嫌で、プレゼンなんか絶対無理と思ったが、入ってよかったと本当に思う。

  • 移住ということもあり、人のつながりがほしくて参加した。同期だけでなく、OBも含めたくさんのつながりができた。すごくしんどくなるときがあるが、その時こそ同期のつながりが強くなる。

閉会挨拶

田辺市副市長 木村晃和

これまで5期58名の修了生を輩出してきたが、全国から注目される地方創生の優良事例と認められ、他の地域でも創設されることとなっています。今後、ネットワークが全国に広がることを期待しています。

新型コロナウイルスの感染拡大について、オリンピック・パラリンピックの影響が懸念され、ワクチンの安定供給にも不確定な要素がございますが、コロナ後どのような時代になるのか見えないことが多いものの、専門家の中では地方への風が吹くとも言われています。コロナ禍においてデジタル技術が急速に進歩し、サイバー空間が拡大しています。働く場の自由度が格段に広がり、東京一極集中の必要もなくなってきています。

地方への大きな風をつかむことが、6期の重要なテーマだと思います。講義を通じて新しい時代を見定め、地域課題を解決する新たなビジネスを生み出していただけるよう期待しています。