6日目

講義:超高齢社会の地域ビジネスの可能性

日時:2021年10月09日  13:30~16:30

会場:東部公民館

田辺市における地域課題の重要な視点の一つである「高齢化」をテーマに、地域はどのように変化するのか、どこにビジネスチャンスがあるのかを探りました。

講義「超高齢社会の地域ビジネスの可能性
          ~地域包括ケア時代の生活支援サービス市場~」

講師 三菱UFJリサーチ&コンサルティング
共生・社会政策部長 主席研究員 岩名礼介 氏

「あなたの知っているおじいちゃん、おばあちゃんをイメージしてほしい。」
そんな問いかけから講義がスタートしました。

国によっても、場所によっても、世代によっても、地域によってもお年寄りのイメージや嗜好などは大きく異なります。実は若い世代のイメージは、案外古い高齢者のイメージで固定化されていることも多いのです。

今後の高齢者は、バブル経済の中で20代を過ごしている世代であり、「高齢者」といっても、ひと昔前とは趣味嗜好も違うし、一律のイメージがあるわけでもありません。

そのため、本当の高齢者の姿とは何なのかをイメージできないとビジネスを誤る可能性があります。

一番の人口のボリュームゾーンである「団塊の世代」がまもなく後期高齢者に入ります。
この「団塊の世代」が、今後10年以内には80代半ばとなり、自立した生活をしつつも「ちょっとだけ」できないことを抱える高齢者が爆発的に増えることが予測され、2040年には85歳以上が10%近くを占める時代を迎えます。

そのため、20年後、地域がどうなるのかを予測しながら、ビジネスを考えていく必要があります。

つまり、高齢者のために何かしてほしいということではなく、「ちょっとだけ」できない高齢者が10%を占める社会の中で、ビジネスをしていく必要があるということを理解してほしいのです。

高齢者の生活上の困りごとは、重い荷物を動かしたり、ゴミ出しといった些細なことも多く、こうした小さなニーズに「なんでも介護保険で」という形でサービスを提供していくことは難しいのが実情です。とりわけ全国統一の仕組みである介護保険で、それぞれの地域に沿ったサービスをデザインするには限界があります。

また、誰も管理された生活は苦痛に感じるはずです。

住み慣れた地域で自分らしい自由な暮らしをみんな望んでいるのです。

言い方を変えると、「なじみの人間関係」の中で、「マイペースに生活できる気楽さ」が必要で、そのためには「選択肢」がたくさんあることが重要です。

しかし、行政サービスの中では、こうした「選択肢」に対応していくのが難しいのが実情です。

一方で、民間の強みは、「選択肢」に対応することが可能であることです。

そのため、柔軟性と多様性に対応できる民間企業なら、超高齢社会においては、かなりのビジネスチャンスとなりうる可能性があることを理解してほしいと思っています。

介護にかかわる専門職は、多職種連携し、関係者が「まとまる」ことが必要です。

一方、民間企業は、一律なサービスで「まとまる」のではなく、多様な価値が「まじわる」ことが大切です。そのため、たなべ未来創造塾の取組は素晴らしいと思っています。

また、一人の高齢者を何人で支えなければならないかとよく言われます。

しかし、人口が減少していく中で、単に年齢で支える側と支えられる側に分けるのではなく、元気な高齢者が支える側にまわることも重要な考え方ですし、下で支える人についても、これまで何も関わっていない人に関わってもらうということも重要な視点です。

訪問介護事業所の数が、ついに減少に転じました。

しかし、充足しているわけではありません。

働いている人の高齢化が進み、非常勤が多く、担い手が不足してきているのです。

サービスのニーズが小さくなり、数が増えると、訪問介護では対応することが難しくなります。

こうした点からも、今後は、「ちょっとだけ」困りごとを抱える高齢者に多様な選択肢を提供できるサービスに活路があるのです。

これまでの行政の進め方は、まず行政でたたき台をつくり、そこに専門家や住民などから意見をもらうというものが主流でした。

しかし、今は、プラットフォームとなる「場」をつくり、そこに住民が参加し、自ら考える機会を作ることで化学反応を起こすというスタンスに変わりつつあります。

たなべ未来創造塾は、こうした「場」そのものなのです。

ここで何を創るかは皆さん次第です。

また、たなべ未来創造塾では、修了してからもみんながつないだり、かけ合わせたりしていることは本当に素晴らしいと思っていますし、「選択肢」が多く生まれているということなのです。

今のマーケットが求めていることは、小さくても柔軟で多くの選択肢を提供できるかどうかです。では、ビジネスでどう解決すればよいのでしょうか。

ヒントは下記のとおりです。

  • 都会のような専門店を目指すのではなく、多様なニーズにも対応できるサービスを生み出す。
  • 単体のサービスで直接的に収益をあげるのではなく、本業で利益を出すための顧客を集める手段としてサービスを考える視点も重要。
  • ついでにサービス。それだけのために出向くと採算があわないため、何かをしたついでにサービスを提供する。
  • 高齢者と例えば子育て世帯へのサービスはそれほどかけ離れていない。高齢者だけをターゲットと捉えず、ユニバーサルな生活支援を考える視点も有効。
  • これからの市場は嫌でも高齢者が中心となる。
  • このことを無視してビジネスをしてもうまくいかない可能性が高い。
    そのため、高齢者の多様なニーズを包み込むようなビジネスモデルを考える。