9日目

講義:空港型地方創生への挑戦

日時:2021年11月20日  13:30~16:30

会場:田辺市役所第二別館 3階 大会議室

 (株)南紀白浜エアポートが捉えた地域課題とターゲット、戦略のたて方の事例を学びつつ、空港利用者に対して、自分ができることは何かを考える講義となりました。

講義 空港型地方創生への挑戦(戦略編・具体事例編)

講師 (株)南紀白浜エアポート 森重良太 氏

今回のゲストスピーカーは、(株)南紀白浜エアポートの森重良太さん。

経営共創基盤(IGPI)のメンバーとして、これまで数々の業再生や空港民営化に携わってこられた経験をもとに、現在は田辺市に移住して、地方空港の赤字再生モデル、空港を起点とした地方創生に向け、日々チャレンジを続けられています。

コスト削減などによる空港単体での経営改革は、安全・安心の確保から限界があります。

そのため、(株)南紀白浜エアポートでは、「空港の発展は地域の発展から」をコンセプトに、誘客と地域活性化の専門部署を設け、観光・ビジネス需要そのものを創り、地域全体の活性化を図ることが、地域の玄関口である空港の発展・再生につながると考えています。

一般的な空港では、安心・安全な空港運営とコスト合理化、認知度向上を目指した地域PRなどを主な業務内容としていますが、(株)南紀白浜エアポートでは、加えて旅行業の資格を取得し、地域に人を呼び込むための新たな仕組みを創るとともに、広域視点でDMO機能を果たしながら地域を磨き上げてさらなる魅力を創ることに注力しています。

森重さんが捉える地域課題は、

  • 人口減少(内需が低下し、経済が縮小)
  • 需要の偏差(繁忙期と閑散期の格差)
  • 消費の低さ(日帰り客が多い)

こうした課題を解決するためには、

  • 交流人口の増大
  • 非ピークの底上げ
  • 長期滞在、広域周遊

に取り組む必要があるといいます。

(株)南紀白浜エアポートが狙いを定めたのは、「ビジネス客」なのです。

特にワーケーションについては、首都圏企業への提案型営業や大手代理店の法人営業部と提携したワーケーション向け旅行パッケージの造成などを通じて誘客を仕組み化しつつ、1人乗りレンタカーやセキュリティが確保された個室会議室、Wi-Fi環境の整備、地元宿泊施設でのワーケーション宿泊プランやご当地グルメ弁当など受入体制の強化といった両面から取り組んでいます。 

こうすることで、これまでの国内観光やインバウンドとは違った新たな客層が獲得できるとともに、オフピーク需要(特に平日稼働率)の底上げ、ひいては、企業進出や移住・定住にもつながる可能性を秘めているのです。

一方、企業側にとっても、生産性・創造性・組織力を底上げし、企業価値や競争力を向上していくきっかけにすることができます。

また、これまでの観光とワーケーションとの違いは、

地域のハード(観光資源)を売る ⇒ 地域のソフト(人・文化)を売る

  • 地域の良いところを見せる ⇒ 地域の課題に関わってもらう
  • 2度3度来ても同じような体験 ⇒ 来た回数だけ地域とのつながりが深まる
  • 非日常的なものを見たり聞いたりする ⇒ 非日常的なものに直接触れて学ぶ

こうした(株)南紀白浜エアポートの取組の結果、南紀白浜空港の旅客数は、平日・夏以外の需要が底上げされ、2019年に過去最高の利用者を記録するなど全体が大幅に増加してきました。2020年以降は、コロナの影響を大きく受けているものの、被害を最小限にとどめているといえるのではないでしょうか。

他にも、定期便の機材大型化、特割運賃の実現にも成功し、国内外からのチャーター便の誘致や、ビジネスジェット誘致、新ターミナルの整備も進めています。

また、これからの地域づくりの視点として重要なことは、

  • 民間ビジネスが主体となるのが望ましい(事業性と持続性)⇒ 自治体は下支えとなる仕組みづくりや全体プロモーション
  • 合意形成に時間をかけすぎない ⇒ やれる人でまずは小さなアクションを積み上げて機運醸成
  • 地域の将来像やビジョンを共有する ⇒ 目指す姿から逆算して必要な人・モノ・お金を集める
  • 地域内バリューチェーンを意識して経済波及効果を最大化する ⇒ 地域全体で稼いで持続可能な地域づくりに貢献する

最後に、空港の発展は、地域の持続的な発展の先にしかない、地域のあらゆる産業の相乗効果で地域経済を活性化し、地域全体の力でエアライン(外部需要)を誘致することが必要であることから、同志として一緒に地域活性化に取り組みましょうと宣言し、9日目の講義を終えました。