4日目

講義:田辺市の新たなまちづくりとビジネスチャンス

日時:2021年09月04日  13:30~16:30

会場:オンライン

新型コロナウイルスデルタ株の感染拡大を受けて、今回もオンラインでの開催となりました。今回のテーマは、「田辺市の新たなまちづくりとビジネスチャンス」。

人口減少が進む中、田辺市では今後どのようなまちづくりを進めていくのか、その中でどこにビジネスチャンスがあるのかを探りました。

講義 田辺市の新たなまちづくりとビジネスチャンス

講師 田辺市長 真砂充敏

田辺市では、合併後10年間、新市建設計画に基づいた市政運営を行ってきました。
そのため、合併10周年という節目を強く意識し、新たなまちづくりに向けた転換期にしたいという思いから、2014年に「たなべ営業室」を創設し、「価値創造プロジェクト」を推進してきたのです。

取組を進める中で、ハードももちろん大事ですが、やはり地域で活躍するプレーヤーを創っていくことが重要だという思いから、2016年に「たなべ未来創造塾」をスタートさせました。

当初は、年間12名として5年間で60名の修了生を輩出し、そのうち20名くらいが新たなプロジェクトを始めてくれればと考えていましたが、1期生から多くの皆さんが動き出し、これまで5期58名の修了生を輩出、4期までの実行率は70%を超え、今では全国でも注目される取組となってきました。

また、修了生の皆さんのプロジェクトが1年や2年で終わることなく、継続して取り組んでいるのは本当にすばらしいと感じています。

田辺市では、さらにステップアップさせるため、たなべ未来創造塾を中心としながら「たなコトアカデミー」や「ことこらぼ」「熊野REBORNPROJECT」を通じて、都市と地方との新たな関係人口を創出する取組、女性の副業など新たなチャレンジを支援する「たなべプチ起業塾」などの取組を連携させています。

写真:首都圏関係人口連続講座「たなコトアカデミー」

加えて、熊本県八代市、玉名市、天草市、阿蘇地域、富山県南砺市の5か所で姉妹塾が創設され、地方と地方との新たな共創(協創)による地方創生にも着手しています。

国では、2020年から地方創生第2期をスタートさせていますが、国がこれから必要だと提言していることは、その中身を見ると、まさに田辺市がこれまで取り組んできたことと言えるのではないでしょうか。

今は、時代の大きな変わり目であることは間違いありません。

一つはコロナ。もう一つはデジタル化。

コロナは経済に大きな影響を及ぼし、収束しても今までと同じようにはいかないことも多いと思われます。
また、今後の社会生活にどのような影響を及ぼすのか注意深く見ていく必要があると考えています。

例えば、子どもの成長への影響、お年寄りが外出を控え人と接することが少なくなることの影響など。
「住まい」「価値観」「働き方」が変わります。

まずは、「住まい」について。テレワークの普及によって、デュアルライフ=二地域居住、もっといえば多地域居住が可能になります。そのため、都市圏住民と地域住民が協力しながらまちづくりに取り組んでいく「関係人口」も重要な視点と考えています。
つまり、住民票をカウントするのではなく、住民票がなくても地域に関わる人を増やしていくことが重要なのではないでしょうか。こうしたことが、人口が少なくても豊かに生きることにつながると思います。

次に、「価値観」。これまでは経済が中心に考えられてきましたが、それで本当に豊かになっただろうかと言われています。
こうした世の中の流れの中で「ウェルビーイング」という言葉が盛んに使われるようになってきました。つまり、何が幸せなのか問われる時代となっているのです。

最後に、「働き方」。リモートワーク、テレワークが当たり前となってきました。こうした中で、副業(複業)、パラレルキャリアが注目されています。
長寿社会と言われていますが、このことに伴い、働く期間が長くなっています。一方で、企業生存率は10%を切るというデータもあり、それだけ事業を続けていくのは難しいことです。

企業の寿命は短くなる一方で、人の寿命は延びています。
言い換えれば、一つの仕事で一生を終えることが難しくなっていると言えます。

こうした情勢の中、21世紀の成長分野は非営利団体だという経済学者もいます。
つまり、地域課題を解決するソーシャルビジネス、コミュニティビジネスに活路があるということなのでしょう。
また、非営利団体だからと言って収益をあげてはいけないということでなく、しっかり収益を出して人を雇用し、次の事業に投資していくことを考えていく必要があるとも言われています。

田辺市が目指すまちづくりの方向性、

「一人一人が大切にされて幸せを実感するまちづくり」

「持続可能なまちづくり、暮らし続けられるまち」

「未来へつながるまち」

というキャッチフレーズは、こうした方向性のもとに考えたものです。

持続可能な開発目標である「SDGs」の考え方と全く一緒で、世界中で叫ばれるようになる前から一貫して取り組んできたことなのです。
市長として5期目を迎え、コミュニティ力を再構築する必要があると思っています。町内会やPTAなどいろんな組織がありますが、役員のなり手がなく、これから人口減少が進む中でさらに難しくなります。そのため、組織のあり方そのものを考えていく必要があり、全国的には「小規模多機能自治」という考え方が広がりつつあります。田辺市としては、こうした取組にソーシャルビジネスやコミュニティビジネスの観点を連携させながら、防犯や防災、子育て、高齢者などの日常生活支援を通じて住みやすいまちを目指したいと考えています。

ここに、「たなべ未来創造塾」の皆さんにも関わってほしいと思っています。

皆さんがこれから様々な知識を得て、修了式ではどのようなビジネスプランが発表されるのか本当に楽しみにしています。
講義を通じて、「自分がやりたいこと」「自分ができること」「何のためにするのか(何に貢献できるのか)」の接点を見出してほしいと願っています。

講義のあと、市長は、塾生一人一人と約80分にわたり対話を行い、4日目の講義を終えました。