7日目

講義:地域資源を活用して持続可能な取組へ

日時:2024年10月19日  14:00~17:00

会場:田辺市役所 2階 大会議室

「紀伊山地の霊場と参詣道」が世界文化遺産に登録され、今年で20周年を迎えました。

この20年の間に地域がどのように変化していったのか、今後も持続可能な観光を続けていくためには、地域はどうすればよいのか、また、熊野の山を守り、次代へと繋ぐことに企業がどのように関わることができるのかを考える機会となりました。

■世界に開かれた持続可能な観光地を目指して ~熊野古道からKUMANO KODOへ~

田辺市熊野ツーリズムビューロー会長 多田 稔子 氏

田辺市熊野ツーリズムビューロー(以下「ビューロー」)は、2006年に官民協働の観光プロモーション団体として設立し、世界文化遺産「紀伊山地の霊場と参詣道」を核としたプロモーションと、観光客、特にインバウンドを受け入れるための地元体制の整備からスタートし、その後、着地型旅行業を手掛け、令和4年度には観光庁の先駆的DMO(Aタイプ)に選定されるなど、国内外から高い評価を得ています。

ビューローはプロモーションを進めていく上で、ターゲットを目的意識の高い欧米豪のFIT(個人旅行客)に定め、持続可能で質の高い観光地を目指した取組を進めています。

受け入れ体制の整備とプロモーション

ビューローが掲げる観光戦略の基本スタンスは次のとおりです。

・「ブーム」より「ルーツ」
・「乱開発」より「保全・保存」
・「マス」より「個人」
・「インパクト」を求めず「ローインパクト」で
・世界に開かれた「上質な観光地」に(インバウンドの推進)

特に、世界に開かれた観光地を目指すためにはインバウンドの推進が重要であるという考えのもと、本宮町で外国語指導助手(ALT)をしていたブラッド・トウル氏を迎え入れ「外国人の視点」による受入体制の整備・強化に取り組みました。(看板やガイドマップのローマ字併記、情報収集と整理、ワークショップ等)

また、同じ“巡礼の道”である世界遺産「サンティアゴ巡礼道」を有するサンティアゴ・デ・コンポステーラ市(スペイン)との共同プロモーションを実施するなど、田辺市の魅力を広く発信するプロモーション活動を国内外に対して積極的に行いました。

こういったビューローの活動によって熊野古道の認知度が高まり、田辺市を訪れる外国人も増加してくる中で、ビューローは次の一手として着地型旅行業に着手し、ワンストップ窓口として地元事業者と外国人観光客の間に入ることによって、「言葉」と「決済(支払い)」に対する不安を解消しました。

こうして地道な活動を行っていく中で、地域に少しずつ変化が起こり、外国人を受け入れるための地域全体のシステムができたことが、今もなお田辺市を訪れる外国人観光客が増え続けている大きな要因であると言えます。

コロナ禍の経験とその後の展開

業績も年々右肩上がりに伸びていたのですが、コロナ禍で旅行業の大部分を占めていたインバウンドがストップしたことで売上が激減し、非常に厳しい状況を迎えました。まさに地獄のような3年間であったと言います。

こうした苦い経験を経て、これまでのようにインバウンド需要だけではなく、国内の需要増加を狙った、熊野の豊かな自然を活用した「森林環境学習プログラム」の構築や、コーディネーターとなるインタープリターの育成事業や、まちづくり会社との協働により、かつて熊野詣の際に行われていた海水で身を清める儀式「潮垢離」にスポットを当て、田辺湾岸エリアを中心とした観光・まちづくりに繋げるための「シオゴリプロジェクト」を立ち上げるなど、新たな魅力(価値)の創造に向けた取組にも力を入れています。

こういった新たな取組を行う中、インバウンドの復活も相まって2023年度にはビューローの業績もV字回復し、着地型旅行事業の売上高は8億7000万を超えました(過去最大)。また、この売上の97.9%は地域に支払われており、地域経済に大きな好影響を与えています。

ビューローは、田辺市を訪れる人と受け入れる地元の人、誰もが笑顔になれる観光地を目指し、熊野古道をはじめとする地域資源の保全、活用といった基本の考え方を大事にしながらも、時代の変化に適応した新たな取組にも積極的にチャレンジしています。こうした姿勢が「持続可能な観光地」をつくっていく上で重要になる、そう感じる講義となりました。

■BokuMoku Projects

(有)榎本家具店 代表取締役 榎本 将明 氏(1期生)

家具小売業を取り巻く現状は、建築、生活様式の変化による需要減少、大手量販店の地方進出、インターネット販売の普及による価格競争、さらには少子高齢化や人口減少による市場の縮小等の影響により、年間商品販売額はピーク時(1991年)の1/5以下まで落ち込んでおり、従業員数についても1/3以下になっています。

こういった状況に危機感を感じていたことが、榎本さんがたなべ未来創造塾に入塾するきっかけであったそうです。

榎本さんは、たなべ未来創造塾での学びの中で、地域資源を活用したプロダクトの開発に取り組もうと目を付けたのが「あかね材」でした。

「あかね材」とは、スギノアカネトラカミキリによる食害により、見た目が悪くなった紀州材のことを指します。強度的には、食害の無い一般的な紀州材と遜色はありませんが、その見た目から建築木材としての利用を敬遠されており、時には焼却されることもあり、あまり価値のない木材とされ、木材の平均価格の下落の一因となっています。また、食害のあった山林周辺は、同じような食害を受ける可能性が高く、収支がマイナスになる可能性があることから放置林になりやすく、山林荒廃の要因にもなります。

この紀州材でありながら今まで価値がなかったとされる「あかね材」を使用し、虫食い部分を隠すのではなく、木材の持つ個性として考え、高いデザイン性をプラスしたプロダクトを生み出すことで、あかね材のブランド化を目指し、熊野の山を盛り上げていくプロジェクトチーム「BokuMoku」を設立しました。

「BokuMoku」は、育林業や製材業、木工職人、一級建築士、家具屋、グラフィックデザイナーといった地域内の川上から川下までの異業種6名で結成されており、地域内での経済循環を意識したバリューチェーンを構築していることも特徴の一つです。

「BokuMoku」では、大きく分けて3つのプロジェクトを推進しています。

一つ目は「体験」
森林体験やワークショップ等の体験を通じて山の現状、そして木材に触れてもらうことにより、木の良さを理解してもらう。

二つ目は「プロダクト開発」
木材自体のありのままの良さをそのままに、虫食い、節の痕もデザインに取り入れ、作り手とユーザーが一緒になって山を守っていけるような持続可能なものづくりを目指す。

三つ目は「デザイン」
デザインの力で、山やあかね材の問題を、分かりやすく伝え、興味を持ってもらい、個人個人が自分事として考えるきっかけになるように取り組む。

こうした取り組みが、林野庁「間伐・間伐材利用コンクール」で特別賞を受賞されました。そして、新たな観光コンテンツや土産物の開発、また、CSV、SDGsに関心を持つ企業や熊野で旅客業を営む事業者との取引が生れ、地域内外での新たな関係、既存の関係の強化につながっていき、商業圏が拡大しているといいます。

『自分の本業や強みを生かし、「熊野」の山を守ることで、
きれいな水が流れ、おいしい作物が獲れ、おいしい魚が食べられる。

そして、皆さんの豊かな暮らしにつながる。
地域課題解決に取り組むことが、
共感を生み、企業イメージを高め、結果として企業利益へとつながる。』

「熊野」の山を守るために活動されていること、地域課題の解決に取り組むということが、共感を生み、企業、団体としての価値を高め、結果として利益に繋がる。

こういった企業行動が、地域に必要とされる持続可能なビジネスモデルであると感じる講義となりました。

■グループディスカッション