3日目

講義:地方創生から考える地域課題と地域活性化
ケーススタディ:人生参加型工務店・高垣工務店

日時:2021年08月21日  13:30~16:30

会場:オンライン

今回のテーマは、「地方創生」とは何か。

地域課題の根っこである「人口減少」を深く掘り下げ、「人口減少」で地域はどうなるのか、自分の企業や家族にどのような影響を及ぼすのか、こうした中で、ビジネスチャンスはどこにあるのかを探りました。

またケーススタディとして、たなべ未来創造塾修了生から、人口減少に歯止めにつながる企業行動について学びました。

①講義 地方創生から考える地域課題と地域活性化

講師 熊本大学熊本創生推進機構 金岡省吾 教授

「地方創生」とは、一言で表現すると人口減少の歯止め。

金岡教授は、地方創生に関する国の方向性や政策を交えながら、田辺市においてどのように人口減少が進み、地域にどのような影響を及ぼすのかについて、田辺市の人口ビジョンを中心としながら説明しました。

日本の人口は、2010年をピークに、今後、大幅な人口減少が予測されており、地方から東京圏への大幅な転入が続く一極集中となっています。

こうした状況を是正するため、国では地方創生を積極的に推進し、各種施策を展開しているのです。

地方創生の重要な視点は、下記の3点です

・人口減少を和らげる
・地域の外から稼ぐ力を高めるとともに、地域内経済循環を実現する
・人口減少に適応した地域をつくる

田辺市の将来人口推計に目を向けてみると、田辺市の人口は2020年国勢調査速報値では、ついに7万人を切り69,906名となりました。予測よりも早いスピードで人口減少が進んでおり、2040年には5万人を切る可能性が高まっています。

また、田辺市の老年人口は、2030年頃をピークに緩やかに減少するものの、それを支える生産年齢人口が大きく減少します。

エリア別に見ると、特に龍神村、中辺路、本宮の人口減少率が大きく、本宮に至っては高齢化率が45%を超えています。(2015年国勢調査)

概ね、小学校区単位で田辺市の将来人口を推計すると、三栖や秋津、中芳養では人口増加が予測されていますが、その他のエリアでは人口減少が進み、特に山村地域では大幅な人口減少が予測されています。

なぜ、田辺市の人口は減るのでしょうか。

人口減少は、「自然減」と「社会減」から引き起こされますが、田辺市にとって影響が大きいのは「社会減」なのです。

「地域経済分析システムRESAS(リーサス)」の年齢階級別移動数を表したグラフを見ると、高校卒業後、大学進学等で大幅な「社会減」となっていることがわかります。その後、20代後半で帰ってきている若者が一定数はいるものの、マイナスのほうが大きいため、人口減少が進んでしまいます。

しかし、地域に大学がない以上、それは仕方がない。
それよりも、一旦、都会に出た若者をいかに戻すか。

将来帰ってきたいと思える地域をどう作るかが、重要な視点なのではないでしょうか。

田辺市への移住者数を見ると、令和2年度は過去最高の74人、令和元年度比200%となっています。

こうした地方回帰への流れは全国的に強くなりつつあり、内閣府「新型コロナウイルス感染症の影響下における生活意識・行動の変化に関する調査」によると、特に、東京23区に住む20代の若者の地方移住への関心が高まっています。

一方で、NPOふるさと回帰支援センターのデータでは、「仕事」があることが移住地選択の一番の条件となっています。

では、田辺市に帰りたい、移住したいと思ってもらえるよう、若者が働きたい「仕事」をどうつくればよいのでしょうか。

若者が働きたいと思う会社や仕事は、時代とともに大きく変化しています。

地域課題を解決するビジネス、地方創生にコミットする仕事を“カッコいい”と思う若者が増えているのです。

ローカルイノベーション、CSV(共通価値の創造)、SDGs…
人口減少は、労働力不足や生活環境の悪化をもたらすだけでなく、教育・医療・福祉、立地されるサービス施設や都市戦略など、地域全体に影響を与える大きな課題であり、人口減少が、自分の暮らしや仕事に大きな影響を与えます。

しかし、言い方を変えると、それだけニーズ・ビジネスチャンスが転がっていると捉えることができるのではないでしょうか。

つまり、人口減少が起因となり生じる様々な地域課題を解決することが、新しい仕事を生み出すことにつながれば、人口減少を歯止めしていくことができるのではないでしょうか。

②ケーススタディ
「人生参加型工務店・高垣工務店」

講師 (株)高垣工務店 代表取締役社長 石山登啓 氏(2期生)

社長が病で倒れたため、残されたスタッフ5名を率いて、会社の再建を図ることに。

どうすれば、会社が生き残れるのかを考える中で、お客様に寄り添い、信頼関係を築くことを追求した結果、今では日本最大の工務店ネットワーク「JHABNET」で3年連続顧客満足度No1(お客様紹介率が88%)を受賞するまでになりました。

また、引き続きお客様に寄り添い、ニーズに応える中で、半日型のデイサービス「きたえるーむ」や発達障がいの子どもたちを対象にした放課後デイサービス「ハッピーテラス」といった事業を展開、多角化経営を行うようになったのです。

こうした中、たなべ未来創造塾に出会い、講義を通じて、金岡教授の『コミュニティは武器になる』という言葉が心に深く刻まれた結果、学んで、創造して、飲んでしゃべる場、新しい価値が生み出される場として「シリコンバー」を作ることとしました。

今では、多くのセミナーやイベント、記者会見でも活用されるなど、人と人がつながり、新しい価値が生み出される空間となっています。
「シリコンバー」の会場使用料は無料。しかし、本業である会社の売上げはアップしています。『コミュニティは武器になる』 人と人がつながる空間を作り、そこに寄り添うことで、地域から愛され、地域から必要とされる会社へ。

若年人口の減少に伴い、有効求人倍率が上昇しています。
つまり、企業側は採用が難しく、学生側は企業を選べる状況となっているのです。

しかし、高垣工務店では、スタッフがいきいきと働いている姿、ワクワクする会社づくりを積極的に発信し、体感してもらうことで、県外の若者から高垣工務店で働きたいという意識変化を生み出し、新卒者を雇用できるようになり、結果として、地域の人口減少の歯止めにも寄与しているのです。

また、若いスタッフがいることでベテランの職人のモチベーションアップにもつながっています。
しかし、賃金や休暇など「働きやすさ」だけでは、優秀な人材は確保することは難しく、「働きがい」との両立が必要なのです。

「地域から必要とされる会社」「地域からありがとうを頂ける会社」が「働きがい」を生み出していく。
こうした地域に寄り添う企業行動が、人口減少の中で必要とされるのではないでしょうか。