日時:2021年11月06日 13:30~16:30
会場:田辺市役所 3階 大会議室
「紀伊山地の霊場と参詣道」が2004年に世界遺産に登録され、地域がどのように変化してきたのか、外国人旅行者は何を目的に田辺に訪れているのかを学ぶとともに、コロナ禍という状況下でこれから求められる観光とは何か、ビジネスチャンスはどこにあるのかを探りました。
田辺市熊野ツーリズムビューロー(以下「ビューロー」という。)は、2006年に官民協働の観光プロモーション団体として設立し、地元の受入体制の整備を図るとともに、着地型観光商品の開発を手掛け、世界旅行ツーリズム協議会(WTTC)主催の「明日へのツーリズム賞」に日本で初めてファイナリストとしてノミネートされるなど、世界から高い評価を得てきました。ターゲットを目的意識の高い欧米豪のFIT(個人旅行客)に絞り、持続可能で質の高い観光地を目指し、取組を進めてきたのです。
基本スタンスは、「ブームよりルーツ」「インパクトを求めずローインパクト」「乱開発より保全・保存」「マスより個人」「世界に開かれた上質な観光地に」。
そのため、まず、外国人を呼び込むには外国人の感性が必要と考え、外国人スタッフとしてブラッド・トウル氏を迎えて、ローマ字表記の統一や各種セミナー、指さしコミュニケーションツールの作成などを通じ、現地のレベルアップを図り、さらに情報発信として、イベントやプレスツアー、エージェントツアー、サンティアゴ・デ・コンポステーラとの共同プロモーションなどの取組を行ってきました。
しかし、知名度が高くなるにつれ、「熊野古道を歩きたいが、どうやっていけばいいか?」「旅の行程をどう組めばいいか?」という問合せが増え、これまで運ぶ仕組みがないのに、無責任なプロモーションをしていたことに気づき、宿泊予約、決済などのシステムや個人旅行者に対するプランニングサポート等を行うため、旅行業の資格を取得し、着地型旅行業(DMC)をスタートさせました。
外国人旅行者と地域との間には、「言葉」と「決済」という2つの大きな壁があります。ビューローは、その壁を取り除くという大きな役割を果たしているのです。
こうした取組の結果、ビューローの旅行事業の売り上げは令和元年度において、5億2千万円を超えるまでになり、当地に多くの外国人旅行者が訪れることで、地域の誇りが再構築され、地域の価値を上げることにつながってきました。
しかし、これまで順調に売り上げを伸ばしてきたビューローが、新型コロナウイルスの影響により、今、大きな苦難を迎えています。
そのため、ビューローでは、これまでの基本スタンスを踏まえつつ、国内の新たな需要の掘り起こしに向け、小中学校を主な対象とした森林教育プログラムの構築をスタートさせ、将来的には「熊野自然学校」の創設を目指しています。
他にも、「熊野古道女子部」の活動や、クラウドファンディング、オンラインツアーなど、コロナ禍だからこそ、こうした活動を通じて、人と人とのつながりやコミュニティを形成し、何度も「熊野」を訪れる、「熊野」に継続的に関わる「関係人口」を地道に創っていく。
その関係人口が、インフルエンサーとなり、SNSなどデジタルを活用して、国内の熊野ファンを着実に増やしていく。
インバウンドが回帰する頃には、国内の新たな需要が掘り起こされ、ビジネスチャンスが増しているのかもしれないと可能性を感じる講義となりました。
たなべ未来創造塾1期生でもある岡本さんから、地域課題である鳥獣害対策をビジネスの視点で考えることで、自分の本業である農業を守りながら、地域資源として活用していこうという(株)日向屋の取組について講義をしていただきました。
ホテルマンの経験を経て、実家の農業を継いだものの、経営を任された際、自分が育てた作物の価格を自分で付けられないことに違和感を覚え、自分で販売ルートを開拓し始め、今では系統出荷がゼロとなっています。
こうした中、たなべ未来創造塾に入塾し、講義を通じて、地域課題をビジネスで解決する視点で考えるうちに、地域課題である鳥獣害を解決しなければ、地域の農業を守ることができないということに気づき、地域課題を解決しつつ、これまでにない新しいビジネスを生み出していこうと地域の若手農家でチームを結成し、「かっこいい」「稼げる」「革新的」という新3Kに向けた活動を始めることとしたのです。
狩猟については、これまで5年間の活動で約600頭の捕獲に成功し、地元農家からも「被害がなくなった」、「若い世代がやってくれるから助かる」など感謝されています。
しかし、奪った命をそのまま廃棄していることに疑問を感じ、どうすれば命と向き合い無駄にしない活動ができるのかを考える中で、地域を巻き込み、解体処理場を誘致することに成功し、地域の厄介者である鳥獣害を地域資源に変えることができたといいます。
さらに、解体したものを食べるところまで取り組むことで、販路拡大につなげようと、地元出身のシェフ更井さんと連携し、ジビエ料理試食会を開催するなど、獲るだけでなく、解体して食べるまでを一体的に取り組む活動へと進化しています。更井さんは、その後、Uターンし、たなべ未来創造塾4期生となり、上芳養地区にフレンチレストランをオープンさせています。
他にも獣のエサ場となっている耕作放棄地をなくそうと、地域の保育園と連携し、トウモロコシを栽培したり、地元高校生と連携し、これまで捨てられていた摘果みかんを活用したスムージーの開発などに取り組んできました。
さらに、狩猟体験や農業体験、解体体験、加工体験などの「体験」に取り組むことで、地域に多くの人が訪れるようになっています。また、それだけでなく、人と人がつながることで「交流人口」から「関係人口」へと深化しているのです。
今では、地域内にフレンチ、イタリアン、ゲストハウスが生まれ、地域全体で人を受け入れる仕組みができ、地域経済循環へとつながりつつあります。
岡本さんは、(株)日向屋を農業や狩猟、体験を通じて、ワクワクする地域商社にしていきたいと話しました。
そうなることで、この地域に住みたい、関わりたいという人がやってくる。
こんな大人の姿を子どもたちに見せたり、関わらせることにより、将来この地域に帰ってきたいという子どもたちをつくる。
こうした地道な取組が、結果として人口減少の歯止めにつながるのではないでしょうかと話し、講義を終えました。
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