4日目

講義 テーマは「縮小するまちとビジネスの両立」

日時:2023年09月02日  14:00~17:00

会場:田辺市役所第2別館 3階 大会議室

「人口減少」によって縮小するまち、引き起こされる様々な地域課題…。
そうした状況にあっても、そこにビジネスチャンスを見い出し取り組めることがある。
いくつかの先進事例を紹介いただきながら、人口減少に対応する地域について学びました。

また、ケーススタディでは、第1期修了生の岡本和宜さん(日向屋 代表)から、農業にとって身近な課題である鳥獣害対策からスタートした取組が農業を核とした多方面の取組へと広がり、地域の活性化に繋がっている事例について学びました。

■講義 地域活性化論②「縮小するまちとビジネスの両立」

講師 熊本大学副学長・熊本創生推進機構副機構長 金岡省吾 教授

人口減少は、地域産業の衰退、中心市街地の疲弊、生活関連サービスの低下など、様々な地域課題を引き起こします。こうした状況を改善するために「地方創生」の取組が必要ですが、その目指すところは、

・将来にわたって「活力ある地域社会」の実現
・「東京圏への一極集中」の是正(+広域ブロック単位での中枢都市への地方移動)

この2点により地方の人口減少に歯止めをかけることです。

これら前回の講義で学んだことに加え、「人口減少に適応した地域をつくる」、このことも重要なポイントになります。

では、「人口減少に適応した地域」とは、どのような地域のことでしょうか。
全国的な先進事例でありながら、実は私たちの身近にある田辺市上秋津「秋津野ガルテン」の取組を紹介いただきました。

「地域のことは地域が考える」、小学校跡地を活用した交流施設である「秋津野ガルテン」は地域住民も出資する中で整備され、地域住民によって運営されています。
秋津野ガルテンの活動目的は、農業と地域資源を活かし、グリーンツーリズムで都市と農村の交流を行いながらソーシャルビジネスの推進により地域課題の解決を図り、持続可能な地域の活性化につなげていくことです。

例えば施設内にある農家レストランは地域の主婦の方々により運営されていますが、これまで地域内で営業されていた飲食店が無くなる中、その機能を担っています。

さらに、農家レストランの運営により地域内に雇用が生まれ、食材も地元のものを活用することで地域経済が回る。今では、観光客を含め年間4万人が訪れる秋津野ガルテンは、地域で必要とされながら大きな収益も上げています。

このように地域住民が地域の将来を考え、共に課題解決に向け取り組むことを“共創”と言いますが、まさに秋津野ガルテンの取組は“共創”で、国が進めようとしている農村RMO(地域運営組織)や小規模多機能自治といった、住民が主役の地域運営に通じるものがあると、人口減少時代に求められる地域づくりの考え方から金岡教授の解説もありました。

さらに、地域の活力にはコミュニティ形成も必要で、そのコミュニティがビジネスの強みになる事例として、地域のコミュニティから様々な情報収集をすることで地域が抱える課題を見い出し、それをチャンスとして日常生活支援などの新たなビジネスに繋げている夢未来くんま(静岡県浜松市)や丸進商事㈱(富山県高岡市)の取組を学びました。

地域のことは地域で考える。地域の中で自社がどう生き残っていくかを考える。

塾生の皆さんには、事業を営む地域が人口減少によりどのような課題が引き起こされているかを考え、また、将来引き起こされるであろう地域課題をイメージしながら、そこに自らの強みを活かしてどう関わりビジネスに繋げていけるか、まさにCSVのこうした視点を常に心がけ、ビジネスチャンスを見い出して欲しいと思います。

■講義「ひなたの山の物語」

講師 日向屋 代表取締役 岡本和宜 氏(第1期生)

高校卒業後、隣町の白浜町で約8年間サービス業に携わった岡本さんは、26歳の時に生まれ育った上芳養日向で家業である農業を引き継ぎました。

岡本さんの地域課題解決への取組は、7年ほど前から増えだしたイノシシやシカ、サルによる農作物の鳥獣被害や、通学、通勤路にも出没する生活環境被害が切っ掛けでした。地域の農業や住民の生活を守りたい、その危機感だけだったと言います。

地元の若手農家5人で狩猟免許(わな猟)を取り、活動を始めた鳥獣害対策の効果で、次第に地域内の被害は減少していきます。しかしながら、地域のためとはいえ、イノシシやシカを捕獲して廃棄するだけの作業に疑問を持った岡本さんは、上芳養日向地区にジビエ加工処理施設を誘致し、地域課題であったイノシシ、シカの地域資源としての活用に取り組みます。ジビエ加工処理施設といえば全国的にも赤字施設が多く、運営が非常に難しいといわれる中、今では周辺地域を含め年間600頭ものイノシシ、シカを受け入れる施設として、経営も軌道に乗っています。

一方、こうした鳥獣害対策と並行して、㈱日向屋を立ち上げ、地域で生産された梅や柑橘の加工販売や農作業の受託事業、借り入れた耕作放棄地の農地への再生、就農希望者の農業研修の受入、グリーンツーリズム事業など、“農業”という地域資源を最大限に活用した事業を展開していきます。

今ではすっかり地域に根差した地域商社である㈱日向屋の企業理念(要約)は、次のとおりです。

  • 地域課題に目を向け、その解決によって事業機会を生み出し、自社の成長に繋げる。
  • 農業は社会基盤であり、食料生産のみならず、雇用、健康、教育といった大きな社会課題の解決策を提供でき得る産業である。地域課題を解決する商品・事業開発による経済価値と社会価値の創造を目指す。
  • 自社の強みを活かした地域課題解決に向けたビジネスに挑戦する。

この企業理念は、まさに地方創生、CSVに繋がるものとしてスタッフ全員に共有され、「自分たちは何のために仕事をしているのか」を、いつも意識するようにしているとのことでした。

「何のための仕事かを常に意識する」、ともすればつい忘れてしまいがちなことですが、どんな職業にも共通して大切だと言える事柄です。

そんな㈱日向屋の社名に地域名である「日向」を入れたのは、自分たちが暮らす「日向」を売り出すためだと岡本さんは言います。自分たちだけが良くなっても意味がない、地域の皆で良くなっていかなければならないという、岡本さんの地域を想う気持ちが溢れているエピソードでした。

また、㈱日向屋が企画する収穫体験などのイベントを通して、年間約400人が上芳養日向地区を訪れ多くの関係人口が生まれているとともに、㈱日向屋で働きたいと、移住者も増えています。

『地域の未来図は、地域の魅力を伝えながら地域に生きる人が中心となって描き、そこに移住者がスパイスを入れる。これに取り組むことが日向屋の大きな使命だと考えています。』

常に地域の将来を想い、農業が持つ可能性を信じ行動する岡本さん。

まさに私たちが目指す“かっこいい大人”ではないでしょうか。

信念を持ち地域課題の解決に取り組むことの大切さを教えていただきました。

■グループディスカッション