6日目

テーマは「地域資源の活用とビジネスチャンス」

日時:2023年09月30日  14:00~17:00

会場:田辺市文化交流センターたなべる 2F 大会議室

今回は、田辺市熊野ツーリズムビューロー多田会長から、熊野古道に代表される世界遺産を活用した持続可能な観光地を目指す取組について、ヒロメラボ 山西氏からは、田辺市の特産品である「ヒロメ」の養殖、活用から、豊かな里海づくりに繋がる取組についてそれぞれ講義をいただく中で、地域資源を保全、活用することが地域にどのような影響を与えるかということについて考える機会となりました。

■講義 「世界に開かれた持続可能な観光地を目指して」
     ~熊野古道からKUMANO KODOへ~

講師 田辺市熊野ツーリズムビューロー会長 多田 稔子 氏

田辺市熊野ツーリズムビューロー(以下「ビューロー」)は、新田辺市発足の翌年である平成18年4月に市内5つの観光協会と田辺市が協働する観光プロモーション団体として設立されました。

ビューローの取組は、世界文化遺産「紀伊山地の霊場と参詣道」を核としたプロモーションと、観光客、特にインバウンドを受け入れるための地元体制の整備からスタートし、その後、着地型旅行業を手掛けるなど、今日では国内外から高い評価を得ています。

さらに令和4年度には、観光庁が認定する先駆的DMO(Aタイプ※)に選定されました。

※先駆的DMOとは
持続可能で国際競争力の高い魅力ある観光地域づくりを行う「世界的なDMO」を目指す「観光地域づくり法人(DMO)」に対し、観光庁が戦略的に支援を実施するために選定された団体。なお、「Aタイプ」は観光庁が定める基準を全て満たしている団体で、全国で2団体のみ。

ビューローが掲げる観光戦略の基本スタンスは次のとおりです。

  • 「ブーム」より「ルーツ」
  • 「乱開発」より「保全・保存」
  • 「マス」より「個人」
  • 「インパクト」を求めず「ローインパクト」
  • 世界に開かれた「上質な観光地」(インバウンドの推進)

特に、世界に開かれた観光地を目指すためにはインバウンドの推進が重要となることから、「外国人を呼び込むには外国人の感性が必要」との考えのもと、本宮町で外国語指導助手(ALT)をしていた経験があるブラッド・トウル氏をスタッフに迎え、熊野古道に設置されている道標看板やガイドマップのローマ字表記の統一、宿泊事業者や観光ガイドなどのスキルアップのためのワークショップを開催するなど、受入体制の整備・強化に取り組んできました。

また一方で、田辺市の魅力を広く発信するプロモーション活動を展開するとともに、特に外国人向けには同じく世界遺産である「サンティアゴ巡礼道」を有するサンティアゴ・デ・コンポステーラ市(スペイン)との共同プロモーションを実施するなど、国内外に対して積極的な情報発信を行ってきました。

こうしたビューローの取組により熊野古道の認知度が高まり、田辺市を訪れる外国人も増加してくる中で、次の一手として着地型旅行業に着手し、ビューローがワンストップ窓口として地元事業者との間に入ることで外国人観光客の「言葉」と「決済(支払い)」に対する不安を解消したことが、田辺市を訪れる外国人観光客の増加に繋がった大きな要因であると言えます。

そして旅行業の売上は順調に伸び、しかもそのほとんどが地域内で循環するという経済構造の中で、令和元年には5億2千万円超の売上を記録するまでになりましたが、コロナ禍で旅行業の大部分を占めていたインバウンドがストップしたことで売上が激減し、非常に厳しい状況となりました。

ピンチをチャンスに。

こうした厳しい状況においても、これまでインバウンド頼みであった反省から国内の需要喚起を改めて考える機会(チャンス)と捉え、熊野の豊かな自然を活用した「森林環境学習プログラム」の構築や、コーディネーターとなるインタープリターの育成事業、また、地元まちづくり会社との協働により、かつて熊野詣の際に行われていた海水で身を清める儀式「潮垢離」にスポットを当て、田辺湾岸エリアを中心とした観光・まちづくりに繋げるための「シオゴリプロジェクト」を立ち上げるなど、新たな魅力(価値)の創造に向けた取組もスタートしています。

ビューローが目指す観光地は、田辺市を訪れる人と受け入れる地元の人、誰しもが笑顔になれる「世界に開かれた持続可能な観光地」。熊野古道をはじめとする地域資源を保全、活用するために基本スタンスを大切にしながらも、一方で時代の変化に適応した新たな取組にもチャレンジする。そうした姿勢が持続可能な観光地づくりに繋がっているということです。

■講義 「ヒロメを広めたい~ヒロメのバリューチェーンと人材育成による海づくり~」

講師 ヒロメラボ 山西秀明 氏(第6期生)

山西さんは高校卒業後、静岡県の東海大学海洋学部に入学、在学中はヒロメの研究などに取り組み、同大学大学院で博士課程を満期退学。すさみ町のエビとカニの水族館勤務を経て地元田辺に戻り、ヒロメラボを設立しました。

ヒロメラボ設立のきっかけは、田辺特産の海藻であるヒロメの養殖が上手くいかず、そのことが地元漁業者の収入の不安定要素の一つになっているという、漁業の課題を見つけたことです。ヒロメは全国の他の地域にも生息していますが、特産品としてこれほど活用出来ているのは田辺しかなく、このヒロメをもっと広めることで少しでも地域の漁業の安定、活性化に繋げたいとの思いで活動を始めました。

ヒロメ養殖の基となる種糸づくりは順調に進んでいますが、一方で、収穫されるヒロメの品質や価格、水揚げ量が不安定であるという新たな課題も見えてきました。

そこで山西さんは、種糸づくりからはじまって、地元漁業者が収穫したヒロメを適切に処理(選別、洗浄、加工)することで、飲食店の要望に応じたかたちで提供する「ヒロメのバリューチェーン」の構築をビジネスプランとして未来創造塾で発表し、現在、その実現に向け取組を進めています。

また、ヒロメの養殖といった漁業だけでなく、カヤックやダイビングなど、海の仕事に関わる人材の育成に繋げるため、山西さんが所有する空き家をリフォームして拠点施設「海来塾(みらいじゅく)」をオープンしました。

コンセプトは、
「海を楽しむ人が来る」
「海で働く人が来る」
「海の未来を考える」
海に関する研究に取り組む大学生など、少しずつですが施設を利用し地域に関わってくれる人が増えつつあります。

こうした取組を通して、山西さんは次のステップとして地元の新庄漁業協同組合や関係機関との連携のもと、環境省の事業を活用しながら、田辺湾を自然と人の営みが共存し、豊かな自然や文化が育まれている「里海」としてのブランディングにも取り組んでいます。

田辺湾は岩礁、干潟、砂浜など、外海から内海までいろんな自然環境があり、多種多様な生物が存在する、非常に高いポテンシャルを有していますが、この自然環境は、実は山とも繋がっていて、つまり山の環境が保全されていないと、川が土砂を運んで生態系が維持できなくなるということも起こり得ます。そのため、林業との連携も図っているとのことです。

山から海へ。地域ぐるみの取組のもと豊かな地域資源を存分に活かしたブランディングが出来れば、例えば環境学習としての教育旅行や企業研修のフィールドとしての新たな活用も期待出来、関係人口も増えることで、ひいては地域の活性化にも繋がるはずです。

身近な地域資源を徹底的に知り、その保全と活用を通して地域の課題解決に繋げる。

私たちの周りに当たり前に存在する“モノ”や”コト“にも、実は貴重な地域資源があり、その資源について知ることでビジネスチャンスを見い出すことが出来るのではないでしょうか。

■グループディスカッション