地方創生とは人口減少を歯止めすること。
前回講義にて更井さんがお話されたように、皆さんが人口減少の歯止めに直結するプロジェクトを考えることは難しいです。ですが、塾生の皆さんが人口減少歯止めに触れる、解決の小さな1歩となる提案を考え、チャレンジすることで十分です。そのことが人口減の歯止め、すなわち地方創生にどのように関わり、自らのビジネスに繋げる=ファンを増やし、みんながいいねを押してくれる活動をしていくことができるか、本日お伝えしたいことはこの一点です。
人口減少の要因には「自然減」と「社会減」があり、地方では高校卒業後、大学や就職で都市圏等に転出する「社会減」が大きな影響を及ぼしています。都市への転出は仕方ありません。重要なのは、その後いかに地元に戻ってくる人数を増やせるか。そのためには、早い段階から「かっこいい大人」の存在、すなわち地域の良さを知り、地域で活躍する人たちと触れ合うことで将来帰りたい、あるいは都会から地元にかかわりたいと思う気持ちを若者たちの中に醸成することが大切です。
今回の講義では、人口減少に歯止めをかけた取組事例より、「子育て世代」「コミュニティ」が重要なポイントであることを学びました。
例えば大手住宅メーカーでは、住宅を変えて社会課題解決として、従来のスタイルであった住宅を早く建てて早く売る販売方法からの転換や、敷地内に子どもが遊べる公園や母親たちが集えるスペースを確保するとともに、NPOとの連動、クレド(憲章)の活用、コンセプトを理解する不動産屋さんとの連携など、子育て世代とコミュニティ形成を強く意識した賃貸住宅「母力」を展開することで、利回りは下がりますが、販売実績とともに企業価値を向上させています。
さらに、㈱良品計画などの大手企業が同様な動きを見ても、子育て世代に響く、コミュニティ形成(再生)に着目した事業が民間でもたくさん出てきていて、こうした「ここに住みたい」という思いを引き起こす取組が、事業の成功につながっています。
では、大手企業だからこうした取組が成功しているのでしょうか。
決してそのようなことはなく、地方の中小零細企業や公共でも、「子育て世代」や「コミュニティ」をキーワードとして効果を上げている取組として、富山県の舟橋村や魚津市三太郎塾(たなべ未来創造塾の姉妹塾)の事例があります。
一つ目の事例として、舟橋村では、公共主導で農地の宅地化を推進する事業がいわゆるトリガー(引金)となり、その後、民間企業が参画した結果、522区画が宅地として販売され、多数の子育て世代の流入による人口増加に繋がりました。ところがこれは富山市など周辺の地価より低価格であったことが大きな要因で、その後、次第に地価が均衡してくると住宅開発が鈍化、これに伴い人口流入数も減少し、将来的には高齢化→人口減少局面の突入が懸念されるようになりました。
そこで、舟橋村では「舟橋村で子どもをもう一人産み、育てたい」と思える環境づくり、子育てコミュニティの形成(モデルエリアを設定し、賃貸住宅事業、子育て支援センター設置、誰もが気軽に子育て世代が集える公園づくり(パークマネジメント))を目指したプロジェクトを実施したことで、再び子育て世代の流入が生じ、人口の増加、さらには出生率の向上に転じました。
ここで重要なことは、単に住宅を用意するだけではなく、“舟橋村で子育てしたい”と思える環境を整備(コミュニティを形成)したことです。子育て支援では、立派な施設でベテランの保育士が対応するのではなく、既存の施設を活用し、母親同士が気軽に集い、気兼ねなく相談し合えるコミュニティが形成されていることで、多くの子育て世代を惹きつけています。また、公園についても、ただ遊びに行くだけの場所ではなく、子どもたちが公園の運営に関わる「園むすびプロジェクト」を通して公園に対する愛着が育まれるとともに、そこにもゆるやかなコミュニティが形成されています。
こうしたゆるやかに関わることの出来るコミュニティがあることで、子育て世代の舟橋村への愛着と子育て支援への期待感、安心感に繋がっていて、これは村が実施した住民向けのアンケート結果からも良く分かるといいます。
二つ目の事例は魚津市の「ココママ」の取組です。
子育て中のフリーランスの母親は、子育てと家事を両立させながら仕事でも活躍する、これが非常に難しい状況です。日々の子育てに振り回され、悩みやストレスを抱えている方が多いといいます。
そこで、魚津市でオーダーメイドのマカロン専門店を経営されている大島さんは、こうしたママたちが活躍できる場を作ろうと、応援団である「ココママ」を結成。はじめに手掛けたマルシェがたくさんの来場者とともにマスコミにも多数取り上げられるなどの大反響で、活動1年目からマルシェを複数回開催した他、フリーランスママの座談会や勉強会、ワークショップなど、数々の取組を通してママのコミュニティが形成され、今日ではより大きな広がりになっています。
「こんなコミュニティがある魚津に住んでみたい」
ココママの取組がたくさんの共感を呼び、結果、地域の人口減少の歯止めに一役買っています。そして大島さん自身としても、小さなお店からスタートしたマカロン店が規模拡大に至っています。
人口減少に歯止めをかけることは難しい。でも小さな取組も、コミュニティをつくり、少しずつ広げていくことで地域に必要とされる取組になるということが、この事例からも分かります。
『コミュニティは地方創生の武器になる!』
舟橋村やココママの取組を通して、コミュニティづくりが共感を呼び、人を動かしていく力となっていく。そして、その力は地域の活性化のみならず、企業の利益にもつなげていくことが可能であるということなのでしょう。