9日目

講義 「地域活性化論②」~子育て世代の移入とビジネスチャンス~

日時:2022年11月10日  13:00~16:00

会場:南方熊楠顕彰館

人口減少のメカニズムを解明しながら、民間企業が人口減少の歯止めにどう関わることができるか、子育て世代の移入とビジネスをどう両立させることができるか、舟橋村や魚津市での取組事例などを通じて、コミュニティを武器としてCSVを実現する手法を学びました。

講義「地域活性化論②子育て世代の移入とビジネスの両立」

熊本大学熊本創生推進機構 金岡省吾 教授

復習です。地方創生を一言で説明できますか。

そんな問いかけから講義がスタートしました。
地方創生は、一言で表現すると「人口減少」の歯止め。
では、どうすれば人口減少に歯止めをかけることができるのでしょうか。
人口減少が進む理由には、大きく「社会減」と「自然減」があげられますが、年齢別の人口移動状況を見ると、高校を卒業し、大学や就職で都会に転出する「社会減」の影響が特に大きいという状況です。

県外、大都市、海外など田辺市以外で研鑽を積むことはいいことです。重要なことです。それよりも、学生の頃にいかに地域にふれ、将来帰ってきたいという意識を芽生えさせることがとても大切なのです。

さて、ある自治体では、 30歳代前後の世代で「社会増」がみられます。つまり、地域に帰ってきていることを表し、さらに0~4歳の移動を生み出し、子供を連れて帰ってきていることがわかります。
こうした子育て世代に対し、もう一人産んでもよいと思える環境を作ることができれば、「自然増」につながり、人口減少の歯止めにつながる可能性があります。

そのため、子育て世代の移入が人口減少の歯止めの大きなカギを握っているのです。
千葉県流山市では、子育て世代に焦点を絞り、子育てしやすい環境づくりなどの施策に取り組むことで、その移入に大きな成果をもたらしています。

しかし、それは補助金施策により人の取り合いをするのではなく、重要な視点は「共助」。
旭化成ホームズや積水ハウスでは、コミュニティを武器とした子育て賃貸住宅の商品開発や、子育て共助住宅やの建設に取り組んでおり、地域がみんなで子どもを見守るコミュニティを形成することで、子育て世代にここに住みたいという感情が生まれているのです。コミュニティを武器とした公共空間の再生に乗り出すなど、コミュニティビジネスの注目が高まり、取り組む企業が増えている状況にあります。

しかし、こうした手法は、大手企業だからできることではなく、地方の中小零細企業でも活用が可能で、舟橋村や魚津市の事例を参考にすることができます。

まずは、舟橋村の子育て共助のまちづくりの事例について。
公共投資がトリガーとなり、民間の動きが活発になったことで、住宅開発が進み、子育て世代を中心に人口増加が進んでいました。これは安価な地価ゆえのコスト重視の住宅供給でありましたが、住宅供給の増加にともない地価が近隣市町と拮抗したため、住宅開発/供給が鈍化し、人口流入のストップが予測され、将来的には高齢化の進展が明らかとなりました。
こうしたことから、舟橋村では、産学官金が連携した子育て賃貸住宅の開発に着手。地価に左右されるのではなく、安心して子育てできる環境・仕組み作りを目指し、モデルエリアを設けて、子育て賃貸住宅と子育て支援センター、公園を一体的に整備するプロジェクトを進め、子育て世代の流入促進を企図しました。

中でも、子育て支援機能については、立派な施設や豪華な遊具といったハードも、ベテラン保育士が相談に乗るのでもありません。お母さん同士で相談しあえる“ゆるやかな”コミュニティを形成することで、多くの子育て世帯が訪れるようになっているのです。
公園については、こども公園部長の募集や月イチ園むすびプロジェクトなどを通じて、子どもたちが自ら公園づくりに関わることで、公園への愛着が生まれ、村での“ゆるやかな”コミュニティ形成による子育てへの期待感の醸成につなげようと企図し、結果として、子育て世代の流入、出生率の向上を実現しました。人口減少が進む中、子育て共助のまちづくりはどの自治体においても重要な視点であるに違いないのでしょう。

次に、魚津市「ココママ」の取組事例について。

フリーランスのママは、子育てと家事をこなしながら、仕事で活躍することが非常に難しいのが現状です。子どもに振り回され、たくさんのストレスを抱えているママがとても多いのです。
そのため、ココマカロンの大島さんは、フリーランスのママたちが活躍できる場を作ろうと、「ココママ」を結成。理想の働き方を後押しし、ママが輝ける街を目指して取組を始めました。

同じような悩みを抱えているママたちに呼びかけ、マルシェを開催したところ、大きな反響を呼び、今では多くの出展者、来場者が参加するようになり、大きなママコミュニティが形成されつつあるといいます。他にも勉強会や座談会、育児の助け合いなどを通じて、「共助」を実践しながら、新たな働き方を創造しているのです。

こうしたコンセプトと取組みが共感を呼び、多くのメディアにも取り上げられるなど、好循環が生み出され、魚津に住んでみたいという意識変容へとつながっているのです。
大島さんは、今では自分のお店をオープンすることができました。

地方創生が叫ばれる中、人口減少という課題に立ち向かい、この課題を解決できる企業は必ず地域から必要とされるはずです。

そのために重要な視点は「コミュニティ」。
一見、手間がかかり、コストが合わないと思われがちな「コミュニティ」の形成が、共感を呼び、人を動かす。

結果として、企業利益につなげていくことが可能なのです。
また、コミュニティは、子育てに限ったことではなく、若者、高齢者、どの分野においても、これからの地域ビジネスにおいて大きなカギを握るのでしょう。

講義 Kids Exercise~田辺の子どもたちにスポーツの機会を!~

講師 (有)ツボ井スポーツ 坪井直子 氏(4期生)

1916年に祖父が南新町に坪井商店を創業、その後、スポーツ用品専門店へと変化させています。

ツボ井スポーツが抱える企業課題は、少子高齢化による子どものスポーツ人口の減少と、クラブ時間及びクラブ数の減少。その結果、マーケットが大きく縮小し、それに伴い売上げが減少しています。

一方、地域課題を見ると、子どものスポーツ時間減少により体力低下につながっています。

坪井さんは、この両方の課題を解決するために、4期生でプロトレーナーの北川さんと連携し、子ども向けの体操教室を実施して、健康な子どもを増やそうと考えました。

その後、新型コロナウイルスが猛威を振るい、クラブ活動が軒並み中止となる中、体を動かすことのない子どもたちが増えている現状を目の当たりにし、4期生の北川さんの協力を得て、店舗内の特設スペースで体操教室を実施しました。その後、コロナ関連補助金を活用して、2階の倉庫をリノベーションし、コミュニティスペースを設置。月2回のキッズエクササイズを開催したところ、使いたいという人が増え、羊毛フェルトワークショップやヨガ教室など、これまで来店することのなかった層が訪れるようになっています。

しかし、売上げにはすぐに直結しないのです。
そのため、坪井さんは、今まで来店することのなかった層にもアプローチしようと、4期生でぶどう農家の鈴木さんによるぶどう販売や野球のグラブ磨きイベント、ゆるランニングクラブなどを開催しました。今後も様々な業種の方とのつながりを活かしたマルシェやフリマなどの開催を検討しています。

「コミュニティは武器になる。」

地方の小売業が生き残るためには、重要なキーワードです。
しかし、いかに売上げに結びつけるか、坪井さんの挑戦はまだまだ続きます。

講義 働くをもっと自由に自分らしく~ファミリーキャリアサポートプロジェクト~

講師 (株)onlyone benefit 小山葵 氏(5期生)

(株)onlyone benefitでは、子ども向けや子育て世代向けのセミナー・イベント運営をしつつ、住宅資金計画や住宅会社を紹介するおうちの買い方相談室を運営しています。

その企業課題は、お店(サービス)がまだまだ知られていない、地元ターゲット世代(20~30代)の人口が減ってきていることが挙げられます。

一方で、地域課題を見ると、地元にやりたい仕事がない、子育て世代の働く場所や選択肢が少ないことから、大学卒業後に地元に戻らない若者が多いということが挙げられます。

小山さんは、これら両方の課題を解決するため、ママの働き方の選択肢を増やし、ファミリーキャリアを応援するコミュニティ「ファミ☆キャリ」を創設しようと考えました。
具体的には、ママが働きやすい求人情報を紹介したり、ママの起業サポート、ママ向け情報誌の発行、LINEを活用した情報発信など。

こうした取組を進めることで、田辺で子育てしやすい環境を整備しつつ、ママの働く場を提供することで世帯収入がアップし、結果として自社の顧客獲得につながると考えています。

たなべ未来創造塾修了後、たなべ未来創造塾修了生に協力を仰ぎながら、フリーペーパーを2回発行、メディアに大きく取り上げられるなど、注目度が高まっています。

しかし、一人で取り組むには、負担が大きく無理があり、フリーペーパーを作るだけではコミュニティにつながらないなどの課題が明らかとなりました。

そこで、5期生の土井さんや横矢さん、プチ1期生の濱口さんらと協力し、地域のお店と親子をつなぐというコンセプトのもと、家族の思い出作りや体験の機会を作ろうと「汽車ぽっぽマルシェ」を開催、これまで人の来ることが少なかった公園に大勢の人が押し寄せました。一方、今回のマルシェを通じて収益性や継続性、どう自社の売上につなげるかなどの新たな課題が得られたことから、今後は、自社の強みを活かした子育て世代の所得向上をサポートするため、起業ママ・パパのチャレンジの場の提供やキッズマネースクールなどの定期的なイベント開催などのコミュニティ作りに本格的に挑戦していきたいと話されました。

「コミュニティは武器になる。」

坪井さん同様、すぐに売上げに直結することは難しい。
しかし、一つ一つの積み重ねが将来、大きな力となることでしょう。