6日目

講義 空港型地方創生への挑戦 ~戦略編・具体事例編~

日時:2022年09月29日  13:00~16:00

会場:田辺市役所別館 3階 大会議室

株)南紀白浜エアポートが捉えた地域課題とターゲット、戦略のたて方の事例を学びつつ、空港利用者に対して、自分ができることは何かを考える講義となりました。

空港型地方創生への挑戦~戦略編・具体事例編~

(株)南紀白浜エアポート 誘客・地域活性化室長 森重 良太 氏

今回のゲストスピーカーは、(株)南紀白浜エアポートの森重良太さん。

経営共創基盤(IGPI)のメンバーとして、これまで数々の事業再生や空港民営化に携わってこられた経験をもとに、現在は田辺市に移住して、地方空港の赤字再生モデル、空港を起点とした地方創生に向け、日々チャレンジを続けられています。
コスト削減などによる空港単体での経営改革は、安全・安心の確保から限界があります。
そのため、(株)南紀白浜エアポートでは、「空港の発展は地域の発展から」をコンセプトに、誘客と地域活性化の専門部署を設け、観光・ビジネス需要そのものを創り、地域全体の活性化を図ることが、地域の玄関口である空港の発展・再生につながると考えています。

一般的な空港では、安心・安全な空港運営とコスト合理化、認知度向上を目指した地域PRなどを主な業務内容としていますが、(株)南紀白浜エアポートでは、加えて旅行業の資格を取得し、地域に人を呼び込むための新たな仕組みを創るとともに、紀南地域を一つの地域とした広域視点でDMO機能を果たしながら地域を磨き上げてさらなる魅力を創ることに注力しています。

森重さんが捉える地域課題は、

  • 人口減少(内需が低下し、経済が縮小)
  • 需要の偏差(繁忙期と閑散期の格差)
  • 消費の低さ(日帰り客が多い)

こうした課題を解決するためには、

  • 関係人口の増大
  • 非ピークの底上げ
  • 長期滞在、広域周遊

に取り組む必要があるといいます。

では、どこにターゲットを絞るべきか。

地域資源との相性が良く、非ピークに来訪してもらえて、高い消費単価。
(株)南紀白浜エアポートが狙いを定めたのは、「ビジネス客」なのです。
その中でも、特にワーケーションの誘致に力を注いできました。

首都圏企業への提案型営業や大手代理店の法人営業部門、人材育成企業と提携したワーケーション向け旅行パッケージの造成などを通じて誘客を仕組み化するとともに、地域側でも小型EV車レンタカー、オンデマンドタクシーやWi-Fi環境、セキュリティが確保された個室会議室などの整備、地元宿泊施設でのワーケーション宿泊プランの造成、地域事業者と連携したご当地グルメ弁当のプロデュースなどの受入体制強化といったワーケーションで来訪する人の目線に基づいた誘客・受入の両面からの誘致活動に取り組んでいます。
ワーケーションを推進することで、国内観光やインバウンドとは違った新たな客層(首都圏からのビジネス層)が獲得できるとともに、オフピーク需要(特に平日稼働率)の底上げ、地域消費の活性化、ひいては、企業誘致や移住・定住・UIJターンの促進につながっていく可能性を秘めています。

また、ワーケーションを通じて、社員としては、ウェルビーング向上につながり、企業としてもエンゲージメント強化(生産性・創造性・組織力の底上げ)の効果が得られ、地域では地域経済活性化(関係人口と新たな消費機会の創出)へ。
3者によるwin-winの仕組みが実現できるのです。

しかし、なぜワーケーションで企業のエンゲージメント強化が図られるのでしょうか。

企業は時代にあわせて組織を変化させていかなければなりません。
これまでの人口増大の中で大量生産・コスト削減に向けて同一性の中で効率性を重視してきた画一的な働き方ではなく、人口減少時代に対応して異質性の中で新しい価値を創出していくためには働く場所も含め社員が最もパフォーマンスを発揮できる働き方を選択できる時代になっていく必要があると言われています。
こうした状況の中、第三者機関の研究では、東京での在宅テレワークと和歌山でのワーケーションを比較して、ワークエンゲージメント(熱意・活力)は24%向上、生産性は17%向上、職業性ストレスは56%低減(いずれもワーケーション中)などの効果エビデンスが明らかとなっています。

また、ワーケーションでは、これまでの観光とは異なり、良い部分だけでなく地域の弱みや課題なども含めた新たな地域との関わり方ができるようなプログラムが必要です。
そのため、観光資源ではなく、地域の課題や思いを持った「人」こそが地域の本当の魅力で、その「人」と関わることが関係人口の創出につながるのでしょう。

<観光とワーケーションの違い>

  • 地域のハード(観光資源)を売る ⇒ 地域のソフト(人・文化)を売る
  • 地域の良いところを見せる ⇒ 地域の課題に関わってもらう
  • 2度3度来ても同じような体験 ⇒ 来た回数だけ地域とのつながりが深まる

こうした(株)南紀白浜エアポートの取組の結果、南紀白浜空港の旅客数は、平日・夏以外の需要が底上げされ、2022年は5ヶ月連続で過去最高の旅客数を更新しています。