7日目

講義 持続可能な観光とは… SDGsと企業経営の関係性とは…

日時:2022年10月12日  13:00~16:00

会場:田辺市役所別館 3階 大会議室

「紀伊山地の霊場と参詣道」が2004年に世界文化遺産に登録され、その後、地域がどのように変化してきたのか、また持続可能な観光とは何かを考えるとともに、熊野を守り、継承していくことが企業経営にどのような効果を与えるのかを考える講義となりました。

世界に開かれた持続可能な観光地を目指して ~熊野古道からKUMANO KODOへ~

田辺市熊野ツーリズムビューロー会長 多田 稔子 氏

田辺市熊野ツーリズムビューロー(以下「ビューロー」という。)は、2006年に官民協働の観光プロモーション団体として設立し、地元の受入体制の整備を図るとともに、着地型観光商品の開発を手掛け、世界から高い評価を得てきました。
ビューローでは、ターゲットを目的意識の高い欧米豪のFIT(個人旅行客)に定め、持続可能で質の高い観光地を目指した取組を進めています。

<基本スタンス>
・「ブームよりルーツ」
・「インパクトを求めずローインパクト」
・「乱開発より保全・保存」
・「マスより個人」
・「世界に開かれた上質な観光地に」

外国人を呼び込むには外国人の感性が必要と考え、外国人スタッフとしてブラッド・トウル氏を迎えて、ローマ字表記の統一などの取組みを通じ、現地のレベルアップ、情報の収集と整理を行い、さらに情報発信として、もう1つの世界遺産巡礼道であるサンティアゴ・デ・コンポステーラとの共同プロモーションなどの取組を行ってきました。

また、外国人旅行者それぞれの希望に応じた手配などを行い、熊野古道を歩く旅のワンストップ窓口としてビューローが間に入ることで、外国人旅行者と地域との間にある「言葉」と「決済」という2つの大きな壁を取り除く役割を果たしてきました。こうした外国人を受け入れるための地域全体のシステムができたからこそ、外国人観光客が増加したといえます。

これまでの地道な取組みの結果、ビューローの旅行事業の売り上げは令和元年度において、5億2千万円を超えるまでになり、当地に多くの外国人旅行者が訪れることで、地域の誇りが再構築され、地域の価値を上げることにつながってきました。
しかし、これまで順調に売り上げを伸ばしてきたビューローが、新型コロナウイルスの影響により、今、大きな苦難を迎えています。

そのため、ビューローでは、これまでの基本スタンスを踏まえつつ、国内の新たな需要を掘り起こすため、まちづくり会社との連携を強化し、シオゴリプロジェクトをスタートさせるとともに、熊野の関係人口創出に向けた「熊野古道女子部」「熊野リボーンプロジェクト」、さらに、小中学校を主な対象とした森林教育プログラムもスタートさせ、学びの場をコーディネートしていく「インタープリター」の養成にも着手しています。
「まちじゅう観光」。

ビューローが目指す「観光」とは、地域全体に広がる観光。
そのためには、宿泊業界や旅行業界、交通機関など観光に直接携わる関係者だけでなく、飲食店や農林漁業者、地元企業など幅広い地域住民が観光客を受け入れ、地域全体で需要を生み出していくことが必要なのでしょう。

BokuMoku Projects

(有)榎本家具店 代表取締役 榎本 将明 氏(1期生)

家具屋を取り巻く環境は、建築、生活様式の変化による需要減少、大手量販店の地方進出、ハウスメーカー、異業種からの参入、インターネット販売の普及による価格競争、さらに少子高齢化や人口減少による市場の縮小など、厳しさを増しています。

家具屋の大きな収入源であったいわゆる嫁入り道具の需要はほぼなくなり、クローゼットや下駄箱などは備え付けへと大きく変化しています。
これを裏付けるように、全国の家具屋の売上げは1991年をピークに約20年間で1/5まで減少しているのです。
そこで目を向けたのが「あかね材(虫食い材)」でした。

古くから紀州・木の国と呼ばれる和歌山の紀州材は、強度や耐久性に優れ、さらに調湿性や美しさにおいても優れている木材です。
しかし、林業を取り巻く環境は厳しく、輸入材の進出などにより木材価格はピーク時と比較し、約1/4にまで落ち込み、さらに、林業従事者が減少し適正に管理されない山林が増えることで、スギノアカネトラカミキリによる食害が和歌山県内に広がっており、こうした食害を起こした木材は「あかね材」と呼ばれ、強度に問題はないものの建築材として使用されないことが多く、時には焼却されることもあるのが現状だといいます。

こうした地域課題を解決するため、今まで価値がなかったとされる「あかね材」を活用し、虫食い部分を隠すのではなく、木材の持つ個性と捉え、新たな価値を見出すことができないかと、育林業や製材業、木工職人、一級建築士、家具屋、グラフィックデザイナーといった地域内の川上から川下までの異業種6名で「BokuMoku」を立ち上げました。

まずは、子どもたちを中心に山の現状を知ってもらいたいという思いから、森林体験・ワークショップなどを積極的に開催し、これがきっかけとなり、「手作りキットシリーズ」の販売へとつながり、新たな観光コンテンツや土産物の開発へと進化しています。

また、プロダクト開発では、市長室に納品したテーブルを皮切りに、椅子や看板などの商品が徐々に増え、今ではCSVやSDGsに関心の高い都市圏企業に数多く納品しています。
こうした取り組みが、林野庁「間伐・間伐材利用コンクール」で特別賞を受賞するとともに、メディアにも取り上げられようになり、結果として、企業利益にもつながっているといいます。

『自分の本業や強みを生かし、「熊野」の山を守ることで、
きれいな水が流れ、おいしい作物が獲れ、おいしい魚が食べられる。
そして、皆さんの豊かな暮らしにつながる。
地域課題解決に取り組むことが、
共感を生み、企業イメージを高め、結果として企業利益へとつながる。』

一人一人が自分の本業や強みを生かして、どの地域課題を解決できるのかを自らが考え、地域を守っていくことが、結果として地域から必要とされる企業へとつながり、こうした企業行動こそがまさにSDGなのだと実感させられる講義となりました。