日時:2022年09月15日 13:00~16:00
会場:田辺市文化交流センター たなべる 2階 大会議室
今回のテーマは、「地方創生」とは何か。地域課題の根っこである「人口減少」を深く掘り下げ、人口減少のメカニズムや人口ビジョンをもとに、ビジネスチャンスはどこにあるのか、ケーススタディとして、たなべ未来創造塾1期生である(株)日向屋の岡本和宜さんから、地域課題解決に取り組むことで、人口減少に歯止めにつながる企業行動について学び、活躍する未来塾OBに共通するCSV経営の考え方を探りました。
講師 熊本大学熊本創生推進機構 金岡省吾 教授
「地方創生」とは、一言で表現すると人口減少の歯止めをコミットする地域づくり(地域ビジネス)です。金岡教授は、地方創生に関する国の方向性や政策を交えながら、田辺市や周辺と比較した人口ビジョンなどをもとに,人口減少のメカニズムを説明されました。
日本の人口は、2010年頃をピークに、今後、大幅な人口減少が予測されており、地方から東京圏(実際には、田辺では大阪大都市圏)への大幅な転入が続く一極集中となっています。こうした状況を是正するため、国では地方創生を積極的に推進し、各種施策を展開しているのです。
しかし、自分の好きなことや得意なことを活かしながら、これまでにはない、新しいことにチャレンジしてみたいという気持ちがあるなら「発明」的な発想が重要だと思っています。
地方創生の目的には、下記の3点が挙げられます。・人口減少を和らげる・地域の稼ぐ力を高め、地域内経済循環を実現する・人口減少に適応した地域をつくる
田辺市の将来人口推計に目を向けてみると、田辺市の人口は2020年国勢調査速報値では、ついに7万人を切り69,906名となりました。予測よりも早いスピードで人口減少が進んでおり、2040年には5万人を切る可能性が高まっています。また、田辺市の老年人口は、2030年頃をピークに緩やかに減少するものの、それを支える生産年齢人口が大きく減少という状況が予測されます。
なぜ、田辺市の人口は減るのでしょうか。人口減少は、「自然減」と「社会減」から引き起こされます。「地域経済分析システムRESAS(リーサス)」の年齢階級別移動数を表したグラフを見ると、中学高校卒業後、大学進学等で地域を離れるため大幅な「社会減」となっていることがわかります。その後、20代後半で帰ってきている若者が一定数はいるものの、マイナスのほうが大きいため、人口減少が進んでしまうという状況です。
しかし、地域に大学がない以上、それは仕方がないと言えます。それよりも、一旦、都会(田辺では大阪・京都・兵庫)に出た若者をいかに戻すかが重要で、そのためには将来帰ってきたいと思える地域をどう作るか、それは地域に住む大人たちの責任であり,格好いい大人として、生き生きと稼ぐ地域をつくりだし、御子息に旨をはって伝承できる家業や自分の事業を営んでいるかどうかです。
今、高校生や大学生など若い世代の中で、仕事に対する意識が大きく変わりつつあります。都会の大学を卒業して有名企業に就職するということよりも、「地方創生に関わりたい」「地域課題解決に資する仕事がカッコいい」と考える学生が増えており、こうした企業行動を実践する「カッコいい大人」に憧れを感じ、こんな大人がいるなら「地域に帰りたい」「地域で働きたい」と学生意識は変化し始めています。
実際に、(株)高垣工務店では、地方創生に触れることで、若者たちが「ここで働きたい」と都会から就職先として選択するケースが増えつつあるといいます。都会の企業では、こうした動きを敏感に捉えており、「地方創生という言葉にワクワクする」「社会の課題解決に役立つ仕事がしたい」そう思っている皆さんはウチに来ないか。と、地方創生を武器にして優秀な人材を確保しようとするなど採用方法にも変化がみられています。
また、人口減少社会において地域企業が生き残るためには、「地域から必要とされる会社」になることが必要です。(株)高垣工務店では、①まずは、地域・コミュニティに触れる、②その結果、地域の悩みや身近な困りごとがわかる、③それを自分の得意な本業(ビジネス)で解決することで、④企業も利益をあげながら、「地域から必要とされる会社」になる。と段階的に考えているといいます。地域企業においては、「コミュニティ」の形成が大きな武器になると言えるのではないでしょうか。
企業が地域課題をビジネスで解決することで、「地域から必要とされる会社」となる。そんな企業に若者が魅力を感じ、「ここで働きたい」へ。こうした一つ一つの積み重ねが、結果として人口減少を歯止めしていくことにつながるのだと感じた講義となりました。
講師 (株)日向屋 代表取締役 岡本和宜 氏(1期生)
(株)日向屋の代表取締役で、たなべ未来創造塾1期生でもある岡本さんから、地域課題である鳥獣害対策をビジネスの視点で考えることで、自分の本業である農業を守りながら、地域資源として活用していこうという(株)日向屋の取組について講義をしていただきました。
ホテルマンの経験を経て、実家の農業を継いだものの、経営を任された際、自分が育てた作物の価格を自分で付けられないことに違和感を覚え、自分で販売ルートを開拓し始め、今では系統出荷がゼロとなっています。
こうした中、たなべ未来創造塾に入塾し、講義を通じて、地域課題をビジネスで解決する視点で考えるうちに、地域課題である鳥獣害を解決しなければ、地域の農業を守ることができないということに気づき、地域の若手農家らでチームを結成し、狩猟をはじめました。これまでの活動で数百頭の捕獲に成功し、地元農家からも「被害がなくなった」、「若い世代がやってくれるから助かる」など感謝されています。
しかし、奪った命をそのまま廃棄していることに疑問を感じ、どうすれば命と向き合い無駄にしない活動ができるのかを考える中で、地域を巻き込み、解体処理場を誘致することに成功し、地域の厄介者である鳥獣害を地域資源に変えることができたといいます。
さらに、解体したものを食べるところまで取り組むことで、販路拡大につなげようと、地元出身のシェフ更井さんと連携し、ジビエ料理試食会を開催するなど、獲るだけでなく、解体して食べるまでを一体的に取り組む活動へと進化しています。更井さんは、その後、Uターンし、たなべ未来創造塾4期生となり、上芳養地区にフレンチレストランをオープンさせています。
他にも、高齢化が進む中で農作業ができない農家が増えているという地域課題を解決するため、農作業の受託や、耕作放棄地を借り受けて農業研修生に教えることで後継者育成、地元の小中学校にカッコいい農業を伝える授業、狩猟体験や農業体験、解体体験、加工体験などの「体験」に取り組むことで、地域に多くの人が訪れるようになり、さらに人と人がつながることで「交流人口」から「関係人口」へと深化しているのです。(株)日向屋の活動を通じて、都会の大人たちが「ここで働きたい」「ここで暮らしたい」へ。地域の子どもたちがこんな大人がいるなら「ここに帰ってきたい」へ。
こうした(株)日向屋の活動は、結果として人口減少の歯止めにつながるのではないでしょうか。
1日目
2022.07.21
2日目
2022.08.06
3日目
2022.08.18
4日目
2022.09.05
6日目
2022.09.29
7日目
2022.10.12
8日目
2022.10.27
9日目
2022.11.10
10日目
2022.12.01
11日目
2022.12.22
12日目
2023.01.19
13日目
2023.01.26
14日目
2023.02.18